『インハンド』山下智久が訴えかける“生命への信頼” サイエンスものに収まらない人間ドラマに

『インハンド』山下智久が表現するのは生命への信頼?

 脚本を手がける吉田康弘は、なんばクリエイターファクトリー(NCF)出身。井筒和幸監督『パッチギ!』(2005年)の助監督などを務めたのち、⾃らも監督として映画『バースデーカード』(2016年)、ドラマ『プラージュ〜訳ありばかりのシェアハウス〜』(2017年・WOWOW)などの作品を送り出してきた。

 専門的な科学知識が事件解決のカギを握る各回のエピソードに通底するのは「命の重み」だ。第7話で描かれた、PID(原発性免疫不全症候群)で入院中の牧野の娘のために紐倉が治療法を探す、生きている命と生まれてくる命の両方の貴さを伝える一幕をはじめとする「命との向き合い方」は、吉田が脚本を担当した『コウノドリ(第2シリーズ)』(2017年)にも通じるものがある。また、親友を失った過去を背負って生きる紐倉の孤独は、消えない罪を抱えた『プラージュ』の登場人物たちの心情とも重なり合う。命を見つめ、感情のひだをすくい取る丁寧な筆致が『インハンド』を単なるサイエンスものではない感動的な作品にしている。

 また、第8話でテーマになったのは「遺伝か、環境か」という古典的な問いだった。遺伝を運命として「血はあらがえない」とあきらめるキガシマホールディングスの会長・園川務(柄本明)に、紐倉は「ナンセンス」だと一蹴する。実際には、遺伝と環境の両方が作用しているのだが、寄生虫と人間を平等にリスペクトする紐倉の視線の先には、生命の尊厳と可能性がある。

 物語は終盤に入りフューチャージーン社をめぐって展開することが予想される。紐倉のアメリカ時代の上司・福山(時任三郎)がCEOを務める同社は、最先端の遺伝子診断で業績を上げているが、命に対する2人の異なるスタンスがどのような結末を招くか注目したい。

 親友を失った記憶から右手の幻肢痛が消えない紐倉。しかし仲間への信頼を手放すことは決してない。「未来は僕らの手の中」という言葉には、それでも相手の手を握り返す、という生命への信頼が込められているのではないだろうか。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログtwitter

■放送情報
金曜ドラマ『インハンド』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:山下智久、濱田岳、菜々緒
原作:朱戸アオ『インハンド』(講談社『イブニング』連載中)
脚本:吉田康弘、田辺茂範、福田哲平
プロデューサー:浅野敦也(TBSスパークル)、佐藤敦司(TBSスパークル)
演出:平野俊一、岡本伸吾、青山貴洋
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/inhand/

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