『ガーデンアパート』が鳴らす現代への警鐘 若者たちが一夜の冒険の先に見出すものとは

『ガーデンアパート』が鳴らす現代への警鐘

 物語を織り成す4人のメインキャラクターが本来持ちうるそれぞれの人生が、ふたつから3つになり、そしてまた4つへと戻っていく。繋がって離れてをたった一晩の間で繰り広げるうちに見えてくるのは、正反対のように思える京子という女性の存在とひかりという女性の存在が同じ線の上にあるということや、京子と太郎の類似性。そして人生を共有していたひかりと太郎、京子と世界の間に芽生えるほつれに他ならない。この77分の冒険を経てすべてが元通りになるわけでも、崩壊するわけでもない。ただ登場人物たちの間にどことない空虚感が、おそらくそれまで影を潜めていたものが形をもって表出するようになってくるのだ。それによって、彼らが彼らなりの答えを見出す、また観客が観客なりの答えを見出す時間が与えられる。

 この圧倒的な空虚感にはどこかで出会ったことがある。そう思って本作のチラシ資料の裏側を見てみれば、そこにはライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの名前が書かれているではないか。そうか、この物語は『ヴェロニカ・フォスのあこがれ』ではないか。過去と向き合いながらも孤独と向き合うことのできない中年女性の姿と、それを操る人物と翻弄されていく人々。それぞれの人生が結び付けられて離れ、あまりにも大きな空虚が横たわる。まさか21世紀の日本で誕生した実験映画が、70年代のニュー・ジャーマン・シネマとつながることになるとは。おそらくそれは、愛や自尊心、過去との向き合い方や未来の築き方といった人間のファンダメンタルな部分がすべて、都合の良い解釈によって不透明にされている現代への警鐘といえるかもしれない。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『ガーデンアパート』
6月7日(金)〜13日(木)テアトル新宿ほか、全国順次ロードショー
監督・脚本:石原海
出演:竹下かおり、篠宮由香利、石田清志郎、鈴村悠、石原ももこ、稲葉あみ、彩戸恵理香、Sac Alme、森雅裕、奥田裕介、塚野達大
プロデューサー・共同脚本:金子遊
アソシエイトプロデューサー:中村安次郎
撮影:チャーリー・ヒルハウス
録音:川上拓也
美術:三野綾子
音楽:Cemetery、戸張大輔、Scraps
スチール写真:ヴァンサン・ギルバート、黒田零
ヘアメイク:藤原玲子
スタイリスト:塚野達大
スタッフ:奥田悠介、太田明日香
協力:幻視社
2018/日本/カラー/16:9/ステレオ/77分
配給:アルミード
公式サイト:https://www.thegardenapartment-movie.tumblr.com/

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