吉岡里帆の繊細な“一人二役” 『パラレルワールド・ラブストーリー』で静かに新境地へ

吉岡里帆の繊細な“一人二役”

 交差する二つの世界を描いた映画『パラレルワールド・ラブストーリー』で、それぞれの世界において“違う女性”を演じている吉岡里帆。一人二役的なこのポジションで彼女は、それぞれ異なる魅力を開花させると同時に、その技量の大きさをも示している。

 本作で吉岡が演じるのは、主人公・敦賀崇史(玉森裕太)の恋人である。しかしそれは、“ある一つの現実”でのこと。並行して描かれる“もう一つの現実”では、崇史の親友・三輪智彦(染谷将太)の恋人だ。どちらで演じるのも津野麻由子という人物だが、彼女の持つ性質は、微妙に異なる。同じ人物ではあるのだが、厳密には異なる人物といえる役どころなのだ。つまり、一般的にイメージされる“一人二役”とはまるで違う。これはかなり難しいことなのではないだろうか。吉岡に要求されることは、ヘアースタイルや衣装などの明確な変化や、麻由子の性質の違いを喜怒哀楽に乗せる大胆な表現などではなくて、もっと細やかな、もっと微々たる変化なのである。たとえばそれらは、崇史と智彦それぞれに向けた眼差しの強度や、両者のアクション(仕草)に対するリアクションに見て取れる。「パラレルワールド」を題材とした、ネタバレ厳禁の大がかりな仕掛けが用意されている作品ではあるが、観客がこの迷路を抜け出す糸口は、彼女にこそあるのかもしれない。

(c)2019「パラレルワールド・ラブストーリー」製作委員会 (c)東野圭吾/講談社

 さて、吉岡といえば、若くして引く手数多のトップ女優の一人に躍り出ているという事実に、どなたも異論はないだろう。映画やドラマだけでなく、CMや街頭ポスターで彼女を見かけぬ日はないことが、それらを実証しているはずだ。しかしながら彼女は、幸運なシンデレラガールなどではなく、かといって、アイドルやモデルでのキャリアがあるわけでもない。なにをもってしてキャリアのスタートを定義づけられるかは不明瞭なところだが、彼女は早くから役者という職業を志していたようである。

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