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松坂桃李は欲望の中を漂う“しなやかな獣” 『ユリゴコロ』から『パーフェクトワールド』に至るまで

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 ここ何年か、最も目が離せない俳優、松坂桃李。インタビュー番組やバラエティ番組で常に謙虚で穏やかな微笑みを絶やさない彼は、映画『居眠り磐音』で演じる、普段はおっとりしているが剣を抜くと誰よりも強い坂崎磐音というキャラクターそのもののように、映画やドラマの中で、いつも静かに燃えている。変幻自在な、しなやかな獣。

 2017年の『ユリゴコロ』以降、あらゆる人の欲望の中を漂う松坂桃李の姿には、その言葉が一番しっくりくるような気がした。『娼年』『孤狼の血』等、その年における数々の重要な作品で起用され続け、その全てにおいて好演し、今後も『新聞記者』『蜜蜂と遠雷』と期待作が続く。目覚しい活躍を見せるここ数年の映画における彼を追いかけてみたい。

『ピース オブ ケイク』(C)2015 ジョージ朝倉/祥伝社/「ピース オブ ケイク」製作委員会

 松坂桃李がいかに爽やかなイケメンであるかを語るには、朝ドラ『梅ちゃん先生』や『わろてんか』(ともにNHK総合)、『この世界の片隅に』(TBS系)を見ればいい。『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)の山路役を愛してやまない人も多いに違いない。綾野剛・多部未華子のラブストーリー『ピース オブ ケイク』におけるゲイの天ちゃん役も、劇中劇の艶やかさ含めて、的確な恋の助言をするヒロインの親友というポジションを実にさりげなく好演していた。

 とはいえ、2017年までの彼は常に、爽やかで声がよくて物腰の柔らかい、気品のある青年というイメージを更新し続けていたように思う。しかし、ここ数年の映画における松坂桃李は何かが違う。

 吉高由里子が心の拠りどころを求めて殺人を繰り返す女性を演じた、熊澤尚人監督の『ユリゴコロ』は、『フランケンシュタイン』や『吸血鬼ドラキュラ』、江戸川乱歩の『盲獣』等を思わせる序盤で、殺人鬼であるところのヒロインが持つ甘美で無垢な純粋性を見せた。それと同時に、吉高演じるヒロインの手記を偶然読むことによって、自分の中の凶暴性が目覚め、次第に制御できなくなり、娼婦だった母親と婚約者を密かに隠喩する生肉を一心不乱に切り刻む狂気に満ちた松坂桃李演じる亮介の“誕生”を描こうとでもするかのように物語は一気に加速した。だが、それはなぜか「愛と優しさ」によって唐突な終わりを迎える。

『ユリゴコロ』(c)沼田まほかる/双葉社 (c)2017「ユリゴコロ」製作委員会

 その同じ年に公開されたのは、『ユリゴコロ』と同じ沼田まほかる原作、白石和彌監督の『彼女がその名を知らない鳥たち』である。この映画におけるヒロイン・蒼井優が夢中になる、薄っぺらい愛の言葉ばかりを口にする軽薄な男・水島を演じるのが松坂だ。どうしようもない男だが、ヒロインの上唇の裏に侵入する瞬間の舌の艶かしさといったらない。

 次に演じたのは、白石晃士監督の『不能犯』における、マインドコントロールで人を殺す男。これは人間の感情をどこまでも掘り下げた、欲望の映画だ。人間の意識化に侵入する悪魔か何かのような松坂が、普段は抑圧された人々の負の感情を次々と殺人という形で昇華していく。それで人は満足するのではなく、逆に増していくばかりの負の感情に呑み込まれ、底なしの闇へ落ちていく。「正義」や「希望」という言葉が白々しく感じるほどに、男が作り出す闇は深い。

『娼年』(c)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会

 また、舞台化が先ではあるが、石田衣良原作、三浦大輔監督の『娼年』。激しい濡れ場が話題になったセンセーショナルな映画だが、見終わって感じるのは「安堵」である。松坂演じる男娼・領は女、極稀に男たちの心の奥底にある欲望を叶えるべく、寄り添い、満たしていく。映画においての遺作となった江波杏子の衝撃含め、この映画と領という存在は、観ている者の孤独さえ埋めるほど、許容する優しさに満ちている。

 そして続編の製作も決定している白石和彌監督の『孤狼の血』。映画を観終わってしばらく広島弁が抜けなくなる、血生臭く男臭いこの映画において、松坂は「後を継ぐ男」を演じる。ブタ小屋でスーツが汚れるなんてありえなさそうな、職務に忠実で真面目なエリート刑事の、清濁併せ呑む、終盤の変貌。彼が役所広司のライターを点火することによって、映画は「これから」を示しながら帰結する。

      

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