『きみの鳥はうたえる』三宅唱が明かす、映画作りの醍醐味 「“幸福な時間”を体験してもらえたら」

三宅唱が明かす、映画作りの醍醐味

海外からも絶賛の声が集まった佐知子の人物像

ーー3人の関係性が表れていると感じたのが夜のコンビニのシーンです。あまりにも自然でアドリブも多いのかなと感じました。

三宅:実はものすごくテストを重ねています。というのも、コンビニ内はガラスの反射が非常に多いので、スタッフがどういった順番で隠れていくか、3人がどう店内を動いていくかなど事前に計算しておかないといけないんです。このシーンを自然に観ていただけるというのは、3人が本当に素晴らしい役者であることを証明していると思います。3人ともどうすれば面白くなるか、というのを常に考えてくれていて、アイデアを交換しながら作り込んでいきました。

ーー時代設定が違うこともありますが、コンビニのシーンは原作小説には描かれていないこともあり、何か三宅監督の狙いがあったのかなと思いました。

三宅:狙いというほど大げさではないのですが、まずコンビニが単純に好きなんです(笑)。今年で35歳になるのですが、友達とコンビニに行く時間が明らかに減ってきていて。撮影中になるとスタッフたちと一緒に行く機会があるから、これが実に楽しい。普段は絶対に買わないお菓子を買ったり、普段は絶対に読まない雑誌を立ち読みしてみたり。

ーー絶対に飲みきれない量のお酒を買ってしまったり。

三宅:そうそう。カゴにどんどん入れていく感じね(笑)。店内にいるお客さんを含めて、コンビニにはいろんなドラマが溢れているなとずっと感じていたんです。今回、わずかではありますが、やっと撮れたという思いです。

ーーそういった何気ないシーンの積み重ねが、彼らと一緒に過ごしている感覚に誘ってくれていたんだなと改めて感じました。

三宅:原作小説でも、映画館、ジャズ喫茶、彼らの行きつけのバーなど、3人が過ごす“幸福な時間”が描かれているわけです。それを現代に置き換える中で、コンビニもひとつの要素として機能してくれたのかなと思います。

ーー佐藤泰志さんの小説の映画化は本作で4作目となります。『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』と、いずれも高評価を受けていただけに、最初に本作のオファーが来たときはプレッシャーもあったのでは?

三宅:熊切和嘉監督、呉美保監督、山下敦弘監督の3人が素晴らしい仕事をしていたのを、いち映画ファンとして観ていました。だからすごく光栄なオファーだと思うと同時に、意識しすぎると見上げてしまって何もできないから考えすぎないようにしよう、というのが正直なところでした。登場人物たちの年齢も今までの3作品よりも少し下で、佐藤さんがこの小説を執筆されたのも31歳のとき。僕がオファーをいただいたのも30歳のときだったので、なにか運命めいたものを感じました。一連の作品ではなく、この物語だけに集中すればいいんだと。

 ただ、実際に映画が公開された後に感じたのは、今までの3作品が日本全国の方々に受け入れられていたというエネルギーでした。3作品を観ていた方が、本作にも足を運んでくださることが多かったので、改めて佐藤泰志さんの映画化に名を連ねることができたことを光栄に思います。

ーー劇場公開時の反響について聞かせてください。僕のような30代にとってはドンピシャな部分が多々あったのですが、世代によって感想の違いなどはありましたか。

三宅:細かく言えばいろいろあるんですが、海外の方も含めて、幅広い年代の女性ーーそれこそ貴婦人から女子高生までーーが、「佐知子が本当に好きです!」と伝えてきてくれたことです。すごくうれしかったですし、石橋さんにもその都度伝えていました。

ーー佐知子は男女問わず惹かれてしまいますよね。

三宅:ベルリンで上映した際に、年配の方が「彼女はエナジー・オブ・フリーダムだ」と表現してくれて。友達の母親からも、「ラストの佐知子の顔、あれは女性たちがいつもしている顔で、でも誰もちゃんと気づいてくれていない顔なんだ」と。あとは、「これから大学を卒業するんですけど、ほんとに今のタイミングで佐知子というキャラクターを見ることができて本当によかった」という女性もいました。

ーーラストシーンの“残酷さ”も含めて、佐知子には僕もやられっぱなしでした。原作小説とも大きく異なる点ですが、どんな意図があったのでしょうか。

三宅:小説の中では3人の関係性が殺人事件という悲劇的な形を持って終焉します。でも、映画においては表現次第では、殺人事件よりも愛の告白の方が切実なものとして伝わることもあるんじゃないかと。より残酷で、より愚かで、より苦しいものとして。愛の告白は誰にでも起こりうることですから。

ーー殺人よりも愛の告白が残酷というのはすごく納得です。

三宅:男ってバカですからね(笑)。そのバカさを肯定したいとは全く思っていないのですが、それと同時にすごく素敵なカッコいいことをやった勇敢な男だなという思いもあります。

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