『あなたの番です』が可視化する“現代の呪い”とは? 企画屋・秋元康の才能が全面に出たドラマに

『あなたの番です』が可視化する“現代の呪い”

 本作はミステリードラマだが、2クールということもあってか、あって当然のものが、未だ明らかになっていない。

 普通のミステリードラマなら、ある事件が起きると、その謎を解く探偵が現れ、事件のトリックを解明する。その後、第二、第三の殺人が起こり、そのトリックとアリバイを探偵が崩していき、最後に犯人にたどり着き、犯人は反抗理由を語り物語は終わる。

 というのが基本的な流れだが、犯人がわからないまま殺人だけが次々と起こり、探偵役の主人公たちも事件を捜査する刑事たちも、あまり機能していない。

 おそらく1クール目は混乱するマンションの状況をみせて、2クール目の後半くらいから伏線を回収していくのだろうが、現時点では黒幕がわからないまま、状況だけがどんどん悪化している。ただこれは欠点ではない。(現時点では)辻褄合わせがおこなわれていないことによって、事件の持つ不気味さの方が際立っている。

 この見せ方はミステリーというよりは、ホラーに近いのではないかと思う。

 本作をみていると「呪い」という現象について改めて考えてしまう。かつては前近代的で荒唐無稽な迷信だと思われていた「呪い」だが、Twitter等のSNSを普及して以降、毎日のように起きている炎上騒動を見て、改めて多くの人がリアルなものとして実感しているのではないかと思う。

 フィクションの中で、こういった現代の「呪い」を描いてきたのが、中島哲也監督の映画『告白』や『来る』だろう。

 特に『来る』はある夫婦に訪れた「呪い」が周囲に波及していく姿とお祓いに挑む霊能力者たちの姿を描いた問題作だった。

 小説家のコーマック・マッカーシーが脚本を担当し、リドリー・スコットが監督した映画『悪の法則』も、麻薬カルテルの報復という形で現代の「呪い」を描いていたが、ここで言う「呪い」とは、一度発動すると止まることのなく、人々を蹂躙していく圧倒的な暴力装置のことである。

 そんな制御できない巨大な暴力(呪い)を、交換殺人ゲームという形で可視化したのが『あなたの番です』の暗い魅力だ。

 禁忌を犯したことで発動した「呪い」をどうやって止めるか? おそらく伏線の回収は2クール目に入ってからおこなわれるのだろうが、犯人不在のまま人がひたすら死んでいく現在の状況は、とても現代的ではないかと思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
日曜ドラマ『あなたの番です』
毎週日曜22:30〜放送
出演:原田知世、田中圭、西野七瀬、浅香航大、奈緒、山田真歩、三倉佳奈、大友花恋、金澤美穂、坪倉由幸(我が家)、中尾暢樹、小池亮介、井阪郁巳、荒木飛羽、袴田吉彦、片桐仁、真飛聖、和田聰宏、野間口徹、林泰文、片岡礼子、皆川猿時、徳井優、田中要次、長野里美、阪田マサノブ、大方斐紗子、峯村リエ、竹中直人、安藤政信、木村多江、生瀬勝久
企画・原案:秋元康
脚本:福原充則
演出:佐久間紀佳ほか
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:鈴間広枝、松山雅則
制作協力 :トータルメディアコミュニケーション
製作著作 :日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/anaban/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる