ハリウッド版『君の名は。』はどんな作品に? M・ウェブ×E・ハイセラーの作風から考察
やはりそこは、メガホンをとるマーク・ウェブ監督のセンスを信頼するほかない。10年前に恋愛映画という凡庸かつ進歩が難しいジャンルに革新をもたらした『(500)日のサマー』で長編デビューを飾り、その後はアメコミ超大作シリーズを任されたり、中規模の家族ドラマと青春ドラマをそれぞれ手がけるなどコンスタントに新作を発表してきたウェブ監督。もともとミュージックビデオ監督としてキャリアを築き上げてきた彼の作風の最大の特徴は、やはりそのテンポ感の良い画面展開と、音楽と映像のシンクロの小気味良さにあろう。だとするなら、RADWIMPSの音楽によって物語に抑揚がつけられたオリジナルの雰囲気をそのまま継承することも、ハリウッド版でどのアーティストがその役目を担うかを問わず充分可能であり、むしろそれによってポップさも研ぎ澄まされるに違いない。
そして脚本を務めるエリック・ハイセラーといえばドゥニ・ヴィルヌーヴの『メッセージ』でアカデミー賞候補にあがった優秀な脚本家だ。キャリア初期こそ『エルム街の悪夢』をはじめホラー作品のシリーズ作やリメイク作を手がけてきた彼だが、昨年末に全世界配信されたNetflix作品『バード・ボックス』しかり『メッセージ』しかり、SF的プロットの中に極めてオーソドックスな形のヒューマンドラマを織り交ぜることに長けたシナリオライターとの印象が強い。それを踏まえると、ハイセラーらしさが生じるのはネイティブアメリカンの少女とシカゴの少年という主人公二人のバックグラウンドとしての部分になるだろう(オリジナルでは触れられていない、少年側の家族の物語も深く描写されるような気がしているのだが)。登場人物の物語をつづりながら、アメリカという国の数百年ほどの歴史と向き合う。リメイクの上で最大のポイントは、間違いなくここであろう。
総じて見渡してみれば、日本のプロデューサー陣が関わることでオリジナルのマインドが大きく覆る心配もなく、それでいてエイブラムスによってハリウッド大作的なエッセンスが器用に与えられる。そして内容面においては青春ラブストーリーというドラマ性と音楽との融合を得意とするウェブの演出に、人物描写に深く切り込むハイセラーの脚本。これはなかなか期待できる座組みがそろったものだと改めて思えてくるのだが、さてどうなるのか。このプロジェクトが成功すれば、それをきっかけにアニメーションに関わらず日本作品がハリウッドでリメイクされるという本格的なブームが訪れることになるはずだ。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■作品情報
『君の名は。』
原作・脚本・監督:新海誠
作画監督:安藤雅司
キャラクターデザイン:田中将賀
音楽:RADWIMPS
主題歌(いずれも 作詞・作曲:野田洋次郎):RADWIMPS「夢灯籠」「前前前世(movie ver.)」「スパークル(movie ver.)」「なんでもないや(movie ver.)」
声の出演:神木隆之介/上白石萌音/長澤まさみ/市原悦子
製作:「君の名は。」製作委員会
制作プロダクション:コミックス・ウェーブ・フィルム
配給:東宝
(c)2016「君の名は。」製作委員会