『やすらぎの刻~道』1年にわたる放送がスタート! 倉本聰の新境地となった前作の“4つの驚き”
高齢者たちのドラマ
本作に登場する高齢者たちはとても現代的だ。ドラマ内に高齢者が登場すると遺産相続をめぐる骨肉の争いになり、妙に悟りきった仙人のような存在かかわいそうな被害者として描かれがちだったが、『やすらぎの郷』に登場する高齢者は俗っぽい人ばかり。
肉体の衰えや死を間近に控えた哀しみは存在するものの、主人公の菊村を筆頭にみんな若々しく、女性に翻弄される菊村の姿は、まるで思春期の少年のようだ。さながら本作は、老人ホームを高校に見立てた全寮制の学園ドラマのようで、しかもコメディとして笑えるのだから素晴らしい。
つまり第三の驚きは、老人ホームを舞台とした高齢者たちのドラマを描ききったことで、シルバードラマというジャンルを確立したことこそが『やすらぎの郷』における最大の発明だったと言えるだろう。
昭和芸能史・テレビ史の総括
そして最後の驚きは、このドラマ自体が倉本による昭和芸能史・テレビ史の総括となっていること。
倉本の分身である菊村が語る芸能人の逸話の多くは実話をもとにしたものである。石坂浩二を筆頭に名立たるベテラン俳優が総出演していることは本作の最大の魅力だが、演者のバックボーンと役柄はかなりシンクロしている。そういった虚実の混濁した作りゆえに、ドラマでありながらドキュメンタリー的な面白さが存在したのだ。
倉本は文化人として新聞や書籍を通してテレビへの苦言を発し続けてきた脚本家だが、それを外部からではなくテレビドラマという内側から描いたからこそ『やすらぎの郷』のテレビ批判は、真に迫ったものとして響いてくるのだろう。
この4つの要素は『やすらぎの刻~道』にも、もちろん引き継がれる。しかも放送期間は前作の2倍となる1年なのだから、面白さもきっと2倍である。
ドラマは長ければ長い程、独自の味わいが生まれる。『北の国から』はその最たるものだが、役者の加齢とともにダラダラと続いていく映像空間によってのみ語り得る物語がドラマにはある。だから『やすらぎの郷』の続編が延々と作られることは大歓迎である。出演者と脚本家が生きている限り、延々と続けてほしい。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■放送情報
テレビ朝日開局60周年記念作品『やすらぎの刻~道』
2019年4月8日(月)12時30分から放送スタート
作:倉本聰
出演:清野菜名、風吹ジュン、風間俊介、橋爪功、岸本加世子、宮田俊哉、平山浩行、石坂浩二、浅丘ルリ子、いしだあゆみ、板谷由夏、伊吹吾郎、大空眞弓、丘みつ子、加賀まりこ、上條恒彦、草刈民代、倉田保昭、笹野高史、ジェリー藤尾、名高達男、藤竜也、松原智恵子、水野久美、ミッキー・カーチス、山本圭、八千草薫
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日