『えいがのおそ松さん』には何が描かれていたのか? 自己分析を反映させたファンサービス

『えいがのおそ松さん』の“ファンサービス”

 「誰の思い出なのか?」という謎が分かったとき、本作の物語からは、全く別の意味が立ち上がってくることになる。その真相は、そもそもの『おそ松さん』ブームの理由とは何だったのかという、やはり自己分析的な視点を感じるものになっている。本作を観にくる観客とは、どんな層だろうか。ブームが過ぎ去ったいま、駆けつけるのは、やはり当時からのコアな女性ファンが中心となるだろう。おそらく本作の企画の時点でターゲットはそこに絞られている。そして破壊的なギャグよりも青春ドラマと関係性の描写を優先させながら、おそ松たちと女性ファンとを対話させ、ファンへの感謝を伝えるようなところへ行き着くことになる。

 そういう意味で、本作はTVシリーズの魅力をある程度反映させながらも、本質的なところではファンサービスに特化した作品だと結論づけて良いはずだ。しかし、これがよくあるファンサービスと違うのは、そこにやはり自己分析を反映させているところであろう。そして迎えることになる「卒業」。それは、むしろ皮肉にも思えるほどに直接的である。この結末を、メッセージを、当事者であるファンの多くがどう受け止めるのか。それが今回の劇場版が成功だったかどうかを決めるはずだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『えいがのおそ松さん』
全国公開中
キャスト:櫻井孝宏(おそ松)、中村悠一(カラ松)、神谷浩史(チョロ松)、福山潤(一松)、小野大輔(十四松)、入野自由(トド松)、遠藤綾(トト子)、鈴村健一(イヤミ)、國立幸(チビ太)、上田燿司(デカパン)、飛田展男(ダヨーン)、斎藤桃子(ハタ坊)、井上和彦(松造)、くじら(松代)ほか
原作:『おそ松くん』 赤塚不二夫
監督:藤田陽一
脚本:松原秀
キャラクターデザイン:浅野直之
美術監督:田村せいき
色彩設計:垣田由紀子
編集:坂本久美子
撮影監督:福士享
音楽:橋本由香利
音楽制作:エイベックス・ピクチャーズ
音響監督:菊田浩巳
音響製作:楽音舎
アニメーション制作:studioぴえろ
主題歌「Good Goodbye」Dream Ami(rhythm zone)
配給:松竹
(c)赤塚不二夫/えいがのおそ松さん製作委員会 2019
公式サイト:https://osomatsusan-movie.com
公式Twitter:@osomatsu_movie

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