『ガルパン』『サイコパス』『スパイダーバース』も 音響監督・岩浪美和に聞く、映画の音の作り方
「視線を誘導するために、音がサポートする」
――岩浪さんの手がける作品は、どれも空間を感じさせる音響が印象的です。
岩浪:アニメーションの場合、映像は平面です。そこに空間性を付加させるのが音の大事な役目でもあります。実写の場合だと構図や被写体深度で、自然と人の目が一点に集中しやすいのですが、アニメは基本的に平面に描かれたものですから、注視してもらうべき箇所に視線を誘導する必要があります。そこを音でサポートします。画面の隅々何から何まで全部音をつけるのは簡単ですが、そうすると、どこを見ればいいのか分からなくなってしまう。「なんかすごい」とはなりますが、「なにが起こっているのかわからない」となるんですね。だからストーリーやシーンの流れ、カットの意味を踏まえたうえで音の構築をしていくことが、特にアニメ映画の場合は重要です。格闘や戦闘でも2組のうちどちらが強いのかを音で説明したりもします、例えば『ガルパン』だと、有利なときと、不利なときで発砲音が違うんですよ(笑)。同じ砲塔から同じ弾が出てるので、同じ音が出てなければおかしいのですが、それだと映像に合わないんですね。同じ音ばかりでもお客さんはつまらないですし、だからトドメの一発の音が一番迫力あるように作ってあるんですよ。
――岩浪さんのもとに、お客さんからの声が届き始めたのは『ガールズ&パンツァー 劇場版』あたりからですか?
岩浪:そうですね。きっかけは立川シネマシティさんでの極上爆音上映の大ヒット。世界で唯一『スター・ウォーズ』より『ガールズ&パンツァー 劇場版』のほうが売上が高かった劇場ですから(笑)。そこから、「これは音で見る映画なんだ」とお客様の認知が高まっていって、これは体験型の映画だから4DXを作ろうということになりました。通常そういった特別上映をやる場合は、公開と同時に上映するのが常ですが、当時は異例中の異例で、公開2カ月後くらいに始めました。そのあとは、パッケージが出るのに合わせて再上映しよう! ということになって(笑)。最終的に1年を超えて上映されることになりましたね。それだけ本作が、TVではなく映画館で観てこそ真価が発揮されるものだと認知されたんでしょう。
ーー岩浪さんはご自身で劇場に赴いて、音響の調整をすることも多いと聞きました。
岩浪:そもそも僕が劇場で音響の調整をやるようになったきっかけは、昔は映画館におけるアニメーション映画の地位が決して高くはなかったからなんです。もちろんスタジオジブリなどの大ヒット作は沢山あって、日本の映画界はアニメーションが支えているという側面もあるのですが、劇場さんにとってアニメ映画は子ども向けのものだという認識もありました。そんな時代に、自分が作った作品を劇場に観に行くと、とても小さい音で上映されているんです。確かに、小さなお子さんは大きな音がするだけで怖がってしまいますし、幼児向けの映画は大きな音で上映してはいけないんですが、我々が提供している作品の多くは大人のお客さんに向けたものです。そのあたりが劇場さんとの認識に齟齬があったのかもしれません。我々が作った音は、きちんとメンテナンスした映画館で一定の音量で流すことによって、最大限の効果を発揮するように設計しているのですが、それがなかなか伝わりきらないジレンマがありました。
僕が劇場の調整をするようになったのは、『ガルパン』からですが、色んな劇場さんから「うちでもやってくれ」と声をかけていただくようになりました。複数の劇場を回るようになると「これは音の良い映画なんだな」と多方面に向けてアピールができます。SNSが発達していますから、お客さまが拡散してくれるムーブメントが起きていますし、特に『幼女戦記』のときに感じたのですが、僕が調整に行っていない劇場さんでも、ちゃんとした音量で流してくれるようになってきていると思います。「しっかり音を鳴らさないとお客さんが満足してくれないタイトル」というのが劇場さんにも伝わっていってるのではないでしょうか。少しずつ成果があがっていると感じます。