『IT』続編や『ペット・セマタリー』再映画化も スティーヴン・キング作品が映像化され続ける理由

 キングは、最先端を追いかける尖った感性の持ち主ではなく、むしろ垢ぬけない地方の街に親和的な作家である。だが、共和党的な保守性が抱える宗教的な偏見、好戦性、差別感情、頑迷さには批判的だ。『キャリー』が1976年に続き2013年にもキンバリー・ピアース監督で映画化されるなど、彼の作品は繰り返し映像になり一種の定番と化している。このことは、キングの小説が変化の激しくない普通の地方を舞台にしつつ、保守性に批判的視線をむけていることと無縁でないように思う。新しさを目指さすわけではないが、そこに安住したいわけではないというバランス感覚があったから、キングの小説は長く支持されているのだろう。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(c)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 作品群のなかでも印象的なのは、少年少女、子どもの存在だ。『キャリー』、『シャイニング』、『IT』など、周囲からいじめられたり親の暴力にさらされるなど、辛い境遇の若年者の存在がポイントとなる物語が少なくない。

 キングが脇役も含め登場人物の日常を丹念に描くなかで、夫婦や親子、近所づきあい、仕事のつながりなど彼らの関係性も追う。離婚、解雇、喧嘩など意識のズレや反目、不信が浮き彫りとなる一方、恐怖に立ちむかうための友情、連帯が語られる。なかなかわかりあえない人間関係の間に、わけのわからない恐怖が訪れて苦しめられ、わかりあえる同士で連帯して難局に立ちむかおうとする。これが、キングの物語の王道パターンだ。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(c)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 なかでも、わかりあえないことで危機が高まるのが、若年者である。親や教師が無理解で、周囲の同年代もわかってくれるどころか自分たちを攻撃してくる。大人が味方になってくれなければ維持するのが難しい彼らの日常が、脅かされる。その恐怖は、大きい。典型的なのが『IT』であり、いじめられっ子たちが団結することでなんとか恐怖と戦う。

 また、大人がわかってくれないことに苦しんでいた子どもも、大人になれば自分が子どもの頃にどう感じていたか、うまく思い出せなくなる。『IT』では子ども時代のグループが怪異をもたらすピエロと再び対決するため、大人になってまた集結する。だが、もう子どもではないことが、彼らを不利にする。『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の続編は、その大人時代を描くはずだ。また、『シャイニング』の惨劇をくぐり抜けた子どもが大人になって登場するのが『ドクター・スリープ』であり、交通事故の死から蘇った子どもが父親の知らないなにかに変わってしまうのが『ペット・セマタリー』だった。こうしてみると、今後公開が予定されるキング原作映画は、いずれも子どもと大人というキングらしいテーマを含んだものばかりである。それだけに、上質な仕上がりになることを期待してしまうのだ。

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。 

■リリース情報
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』
ブルーレイ&DVD、4K ULTRA HD発売中
ブルーレイ:2,381円(税抜)
DVD:1,429円(税抜)
4K ULTRA HD(2枚組):5,990 円(税抜)
(c)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:itthemovie.jp

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