現地LAからアカデミー賞直前予想! 老舗映画賞が直面する、視聴行動の変化とインクルージョン

助演男優賞

マハーシャラ・アリ『グリーンブック』
アダム・ドライバー『ブラック・クランズマン』
サム・エリオット『アリー/ スター誕生』
リチャード・E・グラント『ある女流作家の罪と罰』
サム・ロックウェル『バイス』

 これもまたアカデミー会員の“忖度”が動きそうなところで、作品的にも申し分ないのだがどうも決め手に欠ける『グリーンブック』を代表して何の賞を授けるか、というと助演男優賞のマハーシャラ・アリに落ち着きそう。アリは一昨年の『ムーンライト』でも受賞したばかりだが、良いタイミングで良い作品に巡り会えるのも才能のうち。『ある女流作家の罪と罰』も批評家筋に評判が良いが、人種バランスを考えるとマハーシャラ・アリで落ち着くだろう。

助演女優賞

エイミー・アダムス『バイス』
マリーナ・デ・タビラ『ROMA/ローマ』
レジーナ・キング『ビール・ストリートの恋人たち』
エマ・ストーン『女王陛下のお気に入り』
レイチェル・ワイズ『女王陛下のお気に入り』

 『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督最新作『ビール・ストリートの恋人たち』はオスカー戦線からすっかり抜け落ちてしまい、作品賞も監督賞もノミネートを逃した。そんな中で孤軍奮闘しているのが、主人公の母親を演じたレジーナ・キング。素晴らしい出来なのに恵まれなかった作品を代表し、ここはキングが持って行くとの見方が強い。一方、次点のエイミー・アダムスは主演・助演合わせて6度目のノミネートだが、グレン・クローズ様の7度目ノミネートと比べられると、今回も逃してしまうだろう。多くの投票者は、エイミー・アダムスだったらまたいい作品に巡り会えるだろうと考え、BAFTA(英国アカデミー賞)で助演女優賞を受賞したレイチェル・ワイズの方に票が流れそうだ。

監督賞

パヴェウ・パヴリコフスキ『COLD WAR あの歌、2つの心』
スパイク・リー『ブラック・クランズマン』
ヨルゴス・ランティモス『女王陛下のお気に入り』
アルフォンソ・キュアロン『ROMA/ローマ』
アダム・マッケイ『バイス』

 今年の混戦模様の原因は、8月のヴェネチア映画祭から順当に勝ち進んで来た『ROMA/ローマ』とともに、カンヌ映画祭監督賞受賞の『COLD WAR あの歌、2つの心』がぐいぐい食い込んできたことにある。結果的に『COLD WAR~』は外国語映画賞、監督賞(パヴェウ・パヴリコフスキ)、撮影賞の3部門にノミネートされ、今年のダークホースとなった。アカデミー賞ではおそらくアルフォンソ・キュアロンが監督賞を受賞するだろうが、パヴリコフスキ監督にはハリウッドから企画が殺到し、数年後にもまたこの部門に舞い戻ってくるだろう。つまり、『女王陛下のお気に入り』のギリシャ出身監督ヨルゴス・ランティモスのパターンだ。昨年の外国語映画賞受賞作品『ナチュラルウーマン』(チリ代表)のセバスティアン・レリオ監督は既にジュリアン・ムーアを主演に迎えた最新作『Gloria Bell()原題』をチリ・米国合作で撮っている。カンヌで発掘・育成されてアカデミー賞を経てハリウッド、という外国人監督の流れができ始めている。そして、スパイク・リーは第88回アカデミー賞で名誉賞を受賞しているが、その年の俳優部門候補者が全員白人だったことに怒りを表明し、「#oscarsowhite」のハッシュタグとともに授賞式欠席を表明。アカデミー賞がインクルージョン政策に舵を切るきっかけとなった。その経緯を考えると、アカデミー会員が反省の意を込めてスパイク・リーを選ぶ機運もある。

外国語映画賞

『Capernaum(原題)』
『COLD WAR あの歌、2つの心』
『Never Loos Away(原題)』
『ROMA/ローマ』
『万引き家族』

 監督賞と同様、『ROMA/ローマ』と『COLD WAR あの歌、2つの心』の一騎打ちになる模様。米国の映画専門誌の見方では、『ROMA/ローマ』が作品賞にアップグレードされる場合、『COLD WAR あの歌、2つの心』に勝機が訪れる可能性があるとしている。『ROMA/ローマ』を推すNetflixは約22億円をオスカーキャンペーンに費やしたとの噂もあり、ロサンゼルスの街中が『ROMA/ローマ』のビルボードで埋め尽くされ、TVCMやウェブ広告も大量露出している。一方の『COLD WAR あの歌、2つの心』の米国配給はAmazon Studioで、ロビー活動にかなり力を入れていた。実はAmazonはNetflixよりも早くアカデミー賞受賞に向けて活動しており、第89回(2017年)には『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が脚本賞と主演男優賞(ケイシー・アフレック)、外国語映画賞の『セールスマン』(アスガー・ファルハディ監督)の3部門を配信事業者として初めて受賞している。日本から『おくりびと』以来10年ぶりのノミネートとなった『万引き家族』はカンヌ映画祭でパルムドールを受賞し、興行成績も評価も高いものの、オスカーキャンペーンを走り切る資金力で2作品から引き離されてしまった。また、『万引き家族』を米国で配給するマグノリア・ピクチャーズは長編ドキュメンタリー部門有力候補の『RBG 最強の85歳』も手がけており、そちらに忙しいのかもしれない。

長編アニメーション賞

『インクレディブル・ファミリー』
『犬ヶ島』
『未来のミライ』
『シュガー・ラッシュ:オンライン』
『スパイダーマン:スパイダーバース』

 長編アニメーション部門は、長期にわたりディズニー/ピクサーに独占されていた。昨年はピクサーのジョン・ラセターがセクハラ疑惑で退社し、アニメ帝国に亀裂が生じてしまった。その隙間に入り圧倒的な支持を得ているのが、『スパイダーマン:スパイダーバース』。配給のソニー・ピクチャーズは悲願の長編アニメーション部門受賞まで秒読みといったところ。『未来のミライ』は米国におけるジブリ作品の配給で名を挙げたGKIDSが力を入れていたが、立ちはだかる『スパイダーマン』の壁は高い。よって、予想は『スパイダーマン』以外考えられない。邦画2作品とも、今年ばかりは相手が悪かったと言わざるを得ない。

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