山戸結希監督×矢田部吉彦『21世紀の女の子』対談 日本における女性監督の現状と未来

山戸結希×矢田部吉彦対談

山戸「この作品が、新しい動きの始まりとなってくれれば」

矢田部:女の子が作った女の子のための映画ではあるという見方はできると思うんですけど、男の子はもちろん、LGBTの立場にいる方にも観てもらいたい作品ですよね。それはそれとして、僕はとにかく、それこそ本当に性別関係なく、「いま面白い監督誰?」と聞かれたら、その名前が挙がるぐらいの才能が、この作品には集まっているということを、まず声を大にして言いたいです。それで、僕が若干意外だったのは、山戸監督は天才タイプの孤高の人かなと思っていたんです。なので、リーダーシップをとって仲間を作って……という動きが、いい意味で新鮮でした。

山戸:確かに、この企画をお伝えすると、皆さんビックリされていたかもしれません……。きっと、フィールドワークと、ソーシャルワークの交わる領域で、自身の映画製作を前に進めてゆく最中とも言えます。あるいは、1番の利己主義は1番の利他主義と結びつくように世界は出来ているので、全ては、これから生み出される作品のためなのだと思います。後進の世代の方が映画を撮り始め、そして素晴らしい作品が生まれるのを、私自身が観たいということなのだと考えています。

矢田部:本人だからそうおっしゃるかもしれませんけど、やっぱりある地位にいたら、やらなきゃいけないことがあるということですよね。カンヌ映画祭のある視点部門で『淵に立つ』が審査員賞を受賞した時、深田晃司監督が壇上で延々と日本の助成金制度についての不備を指摘しましたよね。「あんなこと恥ずかしいからやめなよ」と言う人がいる中で、彼は自分がみんなを代弁して言えることを言わなきゃいけないという意識で、あえてやっていた。山戸監督のおっしゃっていることを積極的に実践しようとしてるのが深田監督なんですよね。そして山戸監督はまだ20代という年齢で、これだけの注目のされ方をしている。あえて“女性”という言い方をしますが、そんな女性監督は未だかつていなかったわけです。なので、僕からすれば、もしかしたら動機は利己的なのかもしれないけれども、動機は何でもいい。そういう立場に立ち得た人がこういう作品を企画するということ自体が、すごく重要だと思います。

山戸:矢田部さんのご指摘の通り、深田監督は、自分にとっても尊敬してやまない方です。深田監督とは、2年前に溝口健二&増村保造映画祭で初めて対談する機会をいただき、映画人としての活動に、大変感銘を受けました。深田監督の行動からも、学びをいただいていると言えると思います。

山戸結希監督『離ればなれの花々へ』(『21世紀の女の子』より)

矢田部:ちなみに今回の東京国際映画祭での上映はインターナショナルバージョンで、2月に公開されるのとは編集も変わっているそうですね。つまり、インターナショナルバージョンは海外の方に観てもらうことを意識したということですよね。

山戸:はい、インターナショナルバージョンとして、この作品自体が届いてほしいのももちろんありますし、あるいは、今作がきっかけになって、アジアの各国でもこういう動きが起こってくれたら、本当に理想的に思っています。『21世紀の女の子』が先行する旗となって、女の子にとって、映画を撮ることこそが、最も鮮やかな行為なんだ、というイメージが共有されてほしいと願っています。自分の眼で死ぬまでに確認したいのが、映画館で上映される映画の監督の男女比がやがて5対5になり、障壁がフラットになって、「ああ、無理じゃなかったのだ」と、すごく自然に、手渡されるように伝わってゆく光景です。私は、絶対に無理じゃないと思っています。この作品が、私たちの世代、次の世代にとっての、新しい動きの始まりとなってくれれば。そして作品が現代において撮られて終わりではなく、複製芸術として光り続けてゆくことで、共有可能な意志があると考えながら。この『21世紀の女の子』が、過去には見えなかった星座を呼び起こすように、過去には可視化されることのなかった映画を創り出してゆけることを。そのためにできる問いかけを、続けたいです。

矢田部:『21世紀の女の子』のポップな魅力でいろんな人たちの参加を促しながら、より問題意識が広く世界に伝わるような運動になっていったら、それはもう本当に素晴らしいことですね。

山戸:今作は、ポップなアプローチと同時に、本質的な論拠を語り切れるのか?という挑戦も内包していると考えています。新しく生まれる作品に対しての力強い後押しを実現できるように、東京国際映画祭での第一歩を、楽しみにしています。

(取材・構成=宮川翔)

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