『シュガー・ラッシュ:オンライン』ジェンダーロールから自由に プリキュアとの共通点を探る
ドレスを捨てる「プリンセス」ヴァネロペ
『シュガー・ラッシュ』のヒロイン、ヴァネロペは正式にはディズニープリンセスのメンバーではない。公式にプリンセスと認定されているのは14人で、本作にはその14人が総登場する場面があるのだが、まずヴァネロペはどういうタイプのヒロインなのか、おさらいしよう。
ヴァネロペはお菓子のレースゲーム「シュガー・ラッシュ」のお姫様である。ヴァネロペ自身はその記憶を奪われており、キャンディ大王の策略によってゲームのバグだと思い込まされている。他のプレイヤーからも厄介者扱いされる孤独な存在だが、ラルフの活躍で大王の野望が暴かれ、実はゲーム世界のお姫様であることが、前作の最後に明かされる。
いつもの私服からお姫様のドレスに衣装が変わり、お姫様である自分を取り戻したヴァネロペは、しかしそのドレスを脱ぎ捨て、いつもの私服姿に戻ってしまう。その方が自分らしいから、という理由で。
『アナと雪の女王』の女王のテーマソング「Let It Go(ありのままで)」を思わせる行動だが、プリンセスの象徴とも言えるドレスを捨ててしまうヴァネロペは、だからこそプリンセス以外のものにもなれる自由を獲得したとも言える。プリンセスがプリンセス以外のものになれる可能性を示したという点で、ヴァネロペはコード3.0の発展形と言っていいかもしれない。
そんな彼女が続編である本作で、歴代ディズニープリンセスに遭遇する。そこでのやり取りは、上述したようなプリンセスコードをパロディにした、コミカルなやり取りだ。そして、ヴァネロペは歴代プリンセスのようにミュージカルパートで歌ったりもする。
一方、そんなプリンセスよりもヴァネロペが心酔するのが、新キャラクターのシャンクだ。彼女は、マッドマックスのような世界のレースゲーム「スローターレース」の凄腕ドライバーでワイルドな革ジャン身を包み、屈強な男たちを従えている。どの歴代プリンセスにも当てはまらない、ワイルドな魅力を放つシャンクは、リッチ・ムーア監督曰く「ヴァネロペの未来の可能性」だそうだ。(参照:https://animeanime.jp/article/2018/12/21/42253.html)
ディズニー自身がこうしたシーンを描くのは、パロディとは言え、なかなかすごいことではないかと思う。世界中の女の子の憧れであるディズニープリンセス全員と会っておきながら、ヴァネロペはシャンクの方により強く惹かれてしまうのだから。そればかりか、プリンセスたちがヴァネロペに触発されてドレスから私服に着替えたりもする。パロディとしてもユニークだし、より自由で多様なあり方を提示した見事なシーンだった。