年末企画:加藤よしきの「2018年 年間ベスト映画TOP10」 アジア映画が熱い方向へ進化

加藤よしきの「2018年映画TOP10」

 そして『オンリー・ザ・ブレイブ』は、あまり語らない方がいいでしょう。あのラストは忘れられません。

 4位にはインド映画から『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』。これは……ひたすら圧倒されましたね。言葉で説明するより観てもらう方が早いと思います。いつの時代のどこの国の話でも、ドえらい奴がドえらい事をする話は観ていて気持ちがいいものです。

 3位に輝いたのが『SHOCK WAVE ショックウェイブ 爆弾処理班』。これは久しぶりに私が大好きな香港映画がきたな、という感じでした。『八仙飯店之人肉饅頭』(1993年)という映画史上に残る極悪映画を撮ったハーマン・ヤウが、血糊を火薬に変えて作り上げた爆破アクション大作。敵味方どっちもヤケになっての銃撃戦は至福の時間でした。腕が飛んで苦しみもがく人間に、刑事が「このクソ野郎!」と蹴りを入れるシーンは、こういうのが見たかったんだよね、と思わずガッツ・ポーズ。

 堂々の2位は『オペレーション:レッド・シー』。これはかなり特殊な映画です。中国軍全面協力の、言ってしまえば国威発揚的な映画なのですが……いかんせん、監督が世界でも類を見ない熱血監督、ダンテ・ラムだったせいで、奇跡的な傑作が誕生しました。妥協なきスタイルで知られるダンテ監督は、本作で戦場のリアルを徹底追及。「迫撃砲が直撃した満員バスがどうなるか?」など、過酷な戦場を堂々と映像化。さらに登場人物も顔が半壊しても戦い続ける熱血ぶり。これを観て「俺も中国軍で頑張ろう!」と思う人が何人いるのか? たぶん「これは真似できねぇ」となると思うので、国威発揚として逆効果なような気もしますが……面白いので結果オーライ。

 そして、こうした数々の映画を抑えて一番私に刺さったのが『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』。韓国で実際に起きた「光州事件」を題材に、現地に向かうドイツ人記者と、彼を乗せたタクシー運転手の友情と戦いを描いた1本です。この映画については、とにかく主演のソン・ガンホ。彼の演技に魅了されました。韓国の国民的俳優として知られるガンホですが、これは彼のベスト・パフォーマンスなんじゃないでしょうか。うどんを食べるところからの一連のシーンは号泣必至。本当に素晴らしい映画だったと思います。

 駆け足で振り返ってみたのですが、いかがだったでしょうか。そんなわけで今年の私の映画歴を一言でまとめるなら「アジアの熱にやられた」という感じです。しかし、現在、アジア映画は国内での公開規模が縮小しています(『魔女』も『オペレーション~』も特集上映というイベント的な公開でした。『オペレーション~』は仕方ないとも思いますが)。昔のジャッキー映画のように、身近な存在ではなくなってきていますが、その一方で映画はドンドン熱い方向へ進化しています。たしかに劇場で観る機会は少なくなりましたが、ソフトは全国で流通しているので、お手すきの時に試しに観てみるといいかもしれません。きっと私が感じたような「熱」を感じることができると思います。

 来年はどんな映画に出会えて、どんな熱にやられるか? 今から楽しみで仕方ありません。

TOP10で取り上げた作品のレビュー

監督が運転するタクシー“ソン・ガンホ”に乗り光州事件を追体験 『タクシー運転手』の普遍的な希望
全てが過剰! アンディ・ラウ×ハーマン・ヤウ『ショックウェイブ』から感じる香港映画の意地
映画異文化交流の醍醐味! 『オンリー・ザ・ブレイブ』が描く普通の人間とヒーローとしての消防士
『のむコレ』でアジア映画の“熱”を体感せよ 『狂獣 欲望の海域』『The Witch/魔女』に注目
蘇るデスマーチの記憶…… 『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』の“お仕事映画”感
『マンハント』はあらゆる面で怪作! ジョン・ウー、アクション映画への帰還を読む

■加藤よしき
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。

■リリース情報
『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』
Blu-ray&DVD発売中
出演:ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、リュ・ジュンヨル
監督:チャン・フン
提供:クロックワークス/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ
発売元:クロックワークス
販売元:TCエンタテインメント
[レンタル]発売・販売元:株式会社ハピネット
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