『ボヘミアン・ラプソディ』ScreenX版はライヴ・エイドが見せ場に 音楽映画ならではの臨場感

『ボヘミアン・ラプソディ』ScreenX版レポ

 映画『ボヘミアン・ラプソディ』でも描かれているが、当時のクイーンはメンバーのソロ活動も行われるようになり、その関係性に亀裂が生じ始めていた。のちにブライアン・メイは「ライヴ・エイドがなければ、そのまま僕らは解散していたかもしれない」と振り返っているが、新しいバンドが次々に現れ、徐々に“過去のバンド”とされつつある彼らにとって、ライヴ・エイドは「起死回生」のチャンスでもあったのだ。

 果たしてそのパフォーマンスは、今も語り草となるほど素晴らしいものだった。ウェンブリー・スタジアムを埋め尽くすオーディエンスの前で、全出演者の中でも最多の6曲を披露。クイーン以外のファンも大勢いたであろう、決して「ホーム」とはいえない場所を、あっという間に掌握していくフレディのパフォーマンスには、ただただ圧倒されるばかりだ。冒頭「Bohemian Rhapsody」から沸き起こるシンガロング、茶目っ気たっぷりのコール&レスポンス、そしてラストを飾る「We Are the Champions」のステージング。その「完璧な20分間」が世界中で放送されると、翌日から再びクイーンのアルバムが売れまくるという現象まで引き起こしたのだった。

 映画『ボヘミアン・ラプソディ』では、この伝説のステージを細部に至るまで完璧に再現している。ボービントン空軍基地に作られたセットには、メンバーの背後にあるアンプや機材はもちろん、フレディの弾くピアノの上に置かれたステージドリンクの量までが当時のまま。フレディ役のラミを始め、メンバーたちの衣装やステージアクションも(コレオグラファーではなく、ムーヴメント・コーチのポリー・ベネットが協力)、ディティールに至るまで再現されているため、コアなファンであればあるほど楽しめるだろう。


 ScreenXでは、映画の中でクイーンの演奏シーンになると、正面のスクリーンに加えて左右の壁にも画面が広がり、まるでバンドのメンバーになった気分を味わえた。特にライブシーンでは、自分がステージに立ってフレディたちと共に大歓声を浴びているようで、何度も鳥肌が立った。ライヴ・エイドのシーンは、ウェンブリー・アリーナの上空から、ひしめくオーディエンスの中へとカメラが入っていくファースト・カットから、息を呑むような臨場感。しかも、単に画面が左右に広がるだけでなく、マルチスクリーンでの演出も随所に散りばめられている。例えば、正面にフレディが立ち、左右にメンバーの姿が映し出されるなど、通常の上映では観ることのできないカットも楽しめるのだ。

 レコーディング・シーンでも、ScreenXの臨場感は同様に味わえる。例えば「Bohemian Rhapsody」のレコーディング・シーンでは、4人がオペラ風のコーラスを次々と重ねていく様子が3面マルチスクリーンに映し出され、四方八方から声が降り注ぐ迫力に圧倒される。また、「We Will Rock You」でも足踏みの様子が映るなど、楽曲にあわせた見どころも用意されているのだ。

 映画の魅力は、音楽だけではない。複雑な生い立ちや容姿にコンプレックスを持ち、セクシャル・マイノリティであることに葛藤しつつも「自分らしくあること」を何より重んじたフレディの生き方は、「多様性」が求められる今、学ぶべきことが沢山あるし(本作を観れば、あの名曲「We Are the Champions」が、“勝者による、勝者のための歌”などではないことが分かるはず)、そんな彼を「生涯の友」として支えた元ガールフレンド、メアリー・オースティン(映画では結婚したことになっているが、実際は同棲していただけだった)との関係性は、異性間の愛情・友情のあり方について、改めて深く考えさせられる。

 本作『ボヘミアン・ラプソディ』は、伝説のバンド、クイーンを懐かしむために作られた、懐古主義的な作品では決してないのだ。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

■『ボヘミアン・ラプソディ 』ScreenX上映劇場 
【ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場】【ユナイテッド・シネマ 福岡ももち】:http://www.unitedcinemas.jp/screenx/
【シネマサンシャインかほく】:http://www.cinemasunshine.co.jp/theater/kahoku/
【シネマサンシャイン下関】:http://www.cinemasunshine.co.jp/theater/shimonoseki/

■公開情報
『ボヘミアン・ラプソディ』
公開中
監督:ブライアン・シンガー
製作:グレアム・キング、ジム・ビーチ
音楽総指揮:ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー
出演:ラミ・マレック、ジョセフ・マッゼロ、ベン・ハーディ、グウィリム・リー、ルーシー・ボイントン、マイク・マイヤーズ、アレン・リーチ
配給:20世紀フォックス映画
(c)2018 Twentieth Century Fox
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/bohemianrhapsody/

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