菊地凛子のキスが意味するもの 『獣になれない私たち』が投げかける“自分基準”

 もちろん、道なき道を行くというのはリスクは避けられない。「渡りきったつもりで、渡れてなかったんだよ。渡り切るより前に、すんごいところからすんごいスピードの車がワーって突っ込んできて。軽い怪我で済んだんだけど……この道ではない、みたいな」。飄々と生きているように見える呉羽も、怪我をしながら道を模索しているのだから。

 呉羽にとって恒星(松田龍平)との交際も、橘カイジとの電撃結婚も、そして京谷へのキスも、「なぜ?」と理由を聞かれたら「渡ってみたいと思ったから」としか言いようがない。一度きりの人生で「こうしたら、自分がどうなるのか知りたい」という興味を、野性の勘を気づかぬふりなんてできないのだ。失敗も、やってみないとわからないのだから。その呉羽の情熱はカリスマ性がある一方で、理解してくれる人は限られる。野性味とは、現代社会では諸刃の剣だ。

 社会化と野性の勘。優しさと厳しさ。自由とリスク。好意と憎悪。私たちは、いつだって表裏一体の中で生きている。何を選ぶか、何をよしとするか、どのリスクを取るのか。それは1人ひとりの自由意志だ。職業も、住む場所も、結婚相手も、選ぶ自由が認められている今の日本。だが、価値観が多様化したがゆえに、迷いが生まれているのも、また表裏一体だ。

 「自分基準で考えないでもらえますか」(上野/犬飼貴丈)、「自分基準以外で何を考えるの?」(松任谷/伊藤沙莉)。自分基準を大事にするのと同じくらい、他人基準も大事にしていくこと。異なる意見を反射的に拒絶せず、ビールでも乾杯しながら“そんな考え方があるのか”と耳を傾ける余裕を持つこと。わかりやすいなら会計用語などに翻訳しながらでもいい。このドラマそのものが、そうしたきっかけにもなるだろう。闘いになる前に譲り合える、そしてそれぞれが生きたい道をスムーズに進める、そんな手信号が生まれる日も近いかもしれない。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
『獣になれない私たち』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治
協力プロデューサー:鈴木亜希乃
制作会社:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kemonare/

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