『フェイクニュース』二転三転する展開はどう生まれた? 脚本家・野木亜紀子が語る制作の裏側
「能力があるのに正しく評価されていない女性はたくさんいる」
ーー本作含め野木さんのドラマは女性主人公が多いですが、今回も理由があっての北川景子さんの起用だったのでしょうか?
野木:北野さんや監督の堀切園さんから「堅い題材だから若い女性がいいんじゃないか」と言われたんですよね。おじさんが主人公でもいいと思うのですが、世間は北川景子さんが主人公のほうがやっぱり見ますよね(笑)。ストーリーとしても結果的に良かったと思っています。
ーー本当にお美しかったです。『フェイクニュース』の樹も『獣になれない私たち』の晶も仕事ができるのに認められない女性ですが、何か野木さんの経験がキャラクターに反映されているのでしょうか?
野木:わたしは比較的、そんな思いはしなかったんですけど、実際にわたしの周りの友人含め、能力があるのに正しく評価されていない女性はたくさんいます。世の中のドラマの女性主人公ってバリバリ働けて、周りをなぎ倒していってスカッとさせるタイプか、ドジなんだけど一生懸命みたいなキャラクターに分かれがちなんですよね。そういうのももちろんあってもいいのですが、仕事をちゃんとしている女性はたくさんいると思っているので、そんな中で何かを抱えていたり上手くいかないという人の方がわたしはよっぽど書きたいんです。使命感じゃないですけど、「みんな、そういう女性を書かないんですよね? じゃあわたし書きます」という思いがあります。『アンナチュラル』のミコト(石原さとみ)と東海林(市川実日子)も仕事のできる女性だったし、『獣になれない私たち』でも、仕事ができるゆえの不幸を抱えたのが晶(新垣)です。『フェイクニュース』の樹も、仕事ができるしモチベーションもあるのだけど、セクハラ暴力事件がきっかけでネットメディアに出向することになり、居場所を失った背景を持っています。樹とは理由は違うかもしれないけれど、本来なら能力もやる気もあるのに評価されていない、ある種いるべき場所にいられていない人って物凄く多いと思うから、どうせ書くならわたしはそういう人たちに向けて書きたいなと思っています。
ーーその思いは、映画監督を志された大学時代から持っていたのですか?
野木:全然。もう当時は、20歳そこそこで子供で、世の中にそんな人たちがいるなんて知らず、全く考えていませんでした。やっぱりその後の社会経験ですね。ドキュメンタリー制作をしていた時は、女性に対する圧力をそれほど感じたことがなかったんです。女ならではのバカにされ方があっても、女だからこそ得する部分も感じることがあり、地方にお祭りの取材とかに行くと町内会の人から良くしてもらうこともあって……。その後、脚本を書こうと思いシナリオのコンクールに応募し始めたのですが、ドキュメンタリーの仕事をしていると書く暇がないので、一旦業界から足を洗って普通の企業に務めていたんです。派遣とかで色んな会社で働いたのですが、日本の一般企業って女性社員が7割いる会社でも幹部とか部長クラスって全員男だったりするんです。仕事ができるのに「気が強い」とか言われる女性が昇進できないこともあり、「虚しいなあ」と思うことをたくさん目の当たりにしました。脚本家になった後も、テレビ局によっては男尊女卑が強い局もあって、女性プロデューサーが飛ばされたり重宝されなかったりする姿を見てきました。とはいえ、そういうことばかり謳いたいわけではなく、『フェイクニュース』では、たまたま題材に合わせていった結果、主人公像がそうなっていきました。
ーー今回NHKでのドラマは初になりますが、NHKだからできることは感じましたか?
野木:スポンサーがいないっていうのはすごく大きいです。NHKも視聴率を気にしていないわけではないと思うんですけど、民放でこういう題材って視聴率が取れないみたいな言い方をされます。やっぱりNHKはどちらかと言うと社会的意義があるものならば一応やってみるくらいの気持ちがあるので、本当にありがたいなと思いました。
ーー脚本を作り上げるにあたって、何か話し合いを?
野木:演出家によっては、本打ち(脚本打ち合わせの略)に参加されない方もいるのですが、演出の堀切園健太郎さんは本打ちから参加したい方で、今回は北野さんと堀切園さんと長い間話し合いました。基本骨組みはわたしが作って、樹が過去に追いかけていた不正絡みのネタが必要だという話をしたら、北野さんと堀切園さんから“外国人労働者の搾取”が今的でいいんじゃないかということで組み入れたりしましたね。基本は普通の本打ちと変わらないのですが、今回は題材が題材なだけに、エンタメ的な展開の中でリアリティーをどう保つかが主な議題でした。ここまでやったらフィクション色が強くなる、でもドラマとしてはここまでやるべきだ、というようなせめぎ合いです。
ーーリアリティーが求められる題材の中、野木さんのセリフっぽくない言葉たちが上手くマッチしているようにも感じました。
野木:わたしが、あんまりセリフっぽいセリフが好きじゃないという部分もあるかもしれません。『アンナチュラル』もそうだったんですが、今回も説明がどうしても多いドラマで、いかに説明をしなくていいシチュエーションに持っていくかを熟考しました。このあたりは脚本のテクニックの話になっちゃうんですけど。
ーー『アンナチュラル』では久部くん(窪田正孝)のように視聴者に近いキャラクターが置かれていましたね。
野木:今回もキャラクターそれぞれに役割を割り振っていて、情報量の差をもたせています。樹は新聞記者の西(永山絢斗)に対して、ネットメディアの説明ができる。反面ネットのあれこれについて樹は詳しくないから、網島(矢本悠馬)や宇佐美編集長(新井浩文)が担っています。