賛否分かれる反応が拡散!? 阿部サダヲ×吉岡里帆『音量を上げろタコ!』は “沼感”を楽しみたい!
作家性の強い映画について語る際に「この監督の世界観が……」みたいな言い方をよくしますが、三木監督の場合は“世界観”ではなく“沼感”と呼びたくなります。沼のうっそうとした雰囲気、ぬめり感があればあるほど“いい沼”です。それこそ、三木監督のオリジナル作である『インスタント沼』や『亀は意外と速く泳ぐ』(05年)、『図鑑に載ってない虫』(07年)はとてもいい沼加減でした。『音タコ』にも目には見えない大きな大きな沼が広がっています。
ふうかが足を踏み入れ、溺れかかっているのは“自意識”という名のそれは深い深い底なし沼です。足掻けば足掻くほど沼にハマってしまいます。そんなふうかの頭上に、芥川龍之介の短編小説『蜘蛛の糸』のように細~い救いの糸が垂れ下がってくるではありませんか。その細~い糸とは、ふうかがばったり出逢ったシンの吐いた「音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ」やら「やらない理由を探すな」という罵声でした。最初はシンの言葉を素直に受け入れられなかったふうかですが、沼の中で反芻し、自分への罵声を金言へと換えていくのでした。底なし沼でいくら気取っていても、そのままではゆっくりと沈むだけです。沼から抜け出すには、力の限り叫ばなくてはならなかったのです。
三木監督が新たに用意した“沼”へ、ずっぽりと飛び込んでみせた売れっ子女優の吉岡里帆。今回はストリートミュージシャン役ということで、吉岡里帆はクランクインの半年前からギター演奏の特訓とボイストレーニングに励んだそうです。そんな泥沼の中で懸命にもがく吉岡里帆演じるふうかを見守るのが、パンクバンド「グループ魂」のボーカリストであり、宮藤官九郎脚本作『舞妓Haaaan!!!』(07年)ほか多くのコメディ作品に出演してきた阿部サダヲという組み合せです。沼を抜け出た2人は、勢い余って国外にまで飛び出すことに。クライマックスには、映画史に残るほどの衝撃的な長い長い××シーンまで用意されています。
冒頭で『音タコ』はロマンスをめぐる物語だと紹介しましたが、ロックをテーマにした映画でもあります。HYDE、あいみょんらがオリジナル曲を提供しているも大きな話題ですが、人気ミュージシャンが参加しているからロックな映画だというわけではありません。スカやレゲエには決まったリズムがあるのに比べ、ロックはとても曖昧な言葉です。ロックはすごく感覚的なもので、100人中99人が興味を示さない、耳を塞ぐ音楽でも、残り1人が「サイコーじゃん!!」と心震わせて立ち上がれば、それがロックなんだと思います。むしろ、100人中100人が「いいね」を押すような音楽は、ロックから離れていくように思います。
10月12日から公開が始まった『音タコ』のTwitter上のつぶやきを拾ってみると「劇中曲がいい」「主演の2人がいい」という声がある一方、「個人的に合わなかった」「どこが面白いのか分からない」「21世紀最大の駄作」といった手厳しい意見も出ているようです。まぁ、三木監督にしてみれば「ばっちこ~いッ!!」な心境じゃないでしょうか。構成作家時代は、視聴率を稼ぐことよりも、まだ誰も見たことのないおかしな番組を作ることに情熱を注いできたロックなクリエイターですから。
99人が興味を示さなくてもいい。「音量を上げろ」「やらない理由を探すな」というシンの言葉にふうかが目覚めたように、たった1人にでもその言葉が心に届けばいい。それって、すごくロマンスだなぁと思います。
■長野辰次
日刊サイゾーや「映画秘宝」などで執筆。電子書籍『パンドラ映画館』(サイゾー社)が現在発売中。
■公開情報
『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』
全国公開中
出演:阿部サダヲ、吉岡里帆、千葉雄大、麻生久美子、小峠英二(バイきんぐ)、片山友希、中村優子、池津祥子、森下能幸、岩松了、ふせえり、田中哲司、松尾スズキ
監督・脚本:三木聡
主題歌:SIN+EX MACHiNA「人類滅亡の歓び」(作詞:いしわたり淳治 作曲:HYDE)(Ki/oon Music)
ふうか「体の芯からまだ燃えているんだ」(作詞・作曲:あいみょん)(Ki/oon Music)
製作:映画「音量を上げろタコ!」製作委員会
制作プロダクション:パイプライン
配給・制作:アスミック・エース
(c)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会
公式サイト: http://onryoagero-tako.com/
公式Twitter:@onryoagero