大嘘が現実を変えたーー『カメラを止めるな!』上田慎一郎監督&市橋浩治Pが語る“映画が持つ力”

『カメ止め』上田監督&市橋Pインタビュー

ーーずっと自主映画を撮っていたとのことですが、上田監督が人生で初めて映画づくりを始めたのはいつだったのですか?

上田:映画というより、銃で追いかけ合ったりの自主映像を撮り始めたのは中学生の頃ですね。

ーー映画を好きになったきっかけは何だったのでしょうか。

上田:僕は人口1万人にも満たない田舎の出身で、映画館に行くにも1時間くらい電車でかかるほどなんですよ。でも、中学生とか高校生の時って、レンタルビデオ店で借りるお金もそんなにないじゃないですか。だから、友達のお父さんの本棚に山程の映画のビデオのコレクションがあって、それを借りて観ているうちに映画が好きになったんだと思います。

ーーそれから映画監督を志して今に?

上田:夢は、映画監督になるかお笑い芸人になるかでしたね。僕は映画監督よりもお笑い芸人の方が影響を受けていると言っていいくらいお笑いが好きなんです。高校を卒業する時に映画の道を目指すか、吉本のNSCに進むか迷った末に映画の道に進んだんです。M-1も応募したことがあります。

ーー誰かを楽しませたいという気持ちは共通していますね。

上田:やっぱり笑いが好きなんですよね。中学校高校の時も、漫才とかコントを作って文化祭で発表したり、駅前で何時からやるので来てくださいとか言って漫才を披露したりしたこともありました。

ーー市橋さんは、そんな上田さんを見出して……?

市橋:人となりまで詳しくは知らないですよ(笑)。ただ上田くんの短編集も、基本良い話なんですけれども、どこかコメディー要素が入っていて、くすっと笑えるところが多いので、そこに魅力を感じたことはありました。

ーー本作の制作前にクラウドファンディングサイトで支援を募っていましたが、上田監督の「映画は夢であり大嘘」という言葉が胸に刺さりました。

上田:あそこに書いた夢が叶ったなという感じです。脚本で書かれてることは大嘘だらけなんですけれど、本当にラストのあのシーンはバランスを取るために演技とか全くしていないんですね。大嘘だらけの脚本の中に、本物が混ざってくるというのを僕はずっと目指していました。大嘘だらけのハリウッド映画を観て育ってきたわけで、でも僕は映画監督になろうと決めた。これは“大嘘が現実を変えた”わけじゃないですか。同様に『カメラを止めるな!』を観てくれた方の中にも、「もう1回部活を始めました」とか、「脚本を描き始めました」と言ってくれる方がいたんです。それは本当に嬉しいなあと思いましたね。監督としてこれ以上の幸せはないです。

ーー舞台挨拶で色んな劇場を回って実際に見たお客さんの表情はどうでしたか?

上田;舞台上からお客さんの顔ってなんとなく見えるんですよ。今まではたまに、「ああ、なんか気にいらんかったんかな」っていう人もいるんですけど、本作の場合、皆良い顔していて、みんな味方って感じがしました。同じチームのような、なんなら子を見る親のような顔で舞台上を見ていてくれていて嬉しかったです。

ーーそんなヒットを受けて、ENBUゼミナールを取り巻く状況はなにか変わりましたか?

市橋:うちは1年コースの春募集なので、まだ実感はないのですが、この時期にきたことなかった資料請求がきてるなという感触はあります。今、第8弾のクラウドファンディングをやっているんですけど、初動の集まり具合は半端ないです。たぶん上田くんの時は、締切10日前にようやくだっただったと思うのですが、今回の柴田啓佑監督のは目標額も高いのにすでに達成してしまいました。インディペンデント映画を応援しようという人が増えたのかもしれないなとは思いますね。

ーー観客だけでなく、作り手からのアプローチも増えたのではないでしょうか。

上田:ロビーで連絡先を結構聞かれて、メールやFacebookのメッセンジャーを通して、若い人たちから連絡が凄くきますね。「なんでもいいんでやらせてください」というものからキャスティングについてや使っている機材などの質問までたくさん。

ーー上田監督は、若い人たちにどんなアドバイスを……?

上田:「まず、撮れ!」と返していますね。1本目から100点を目指している人が多いのですが、僕は他愛ないものを放課後に大量生産していたので、トライ・アンド・エラーを繰り返して映画を作ってきました。なので、まずは撮って体で失敗するのが一番覚えが早いんです。四の五の言わずに撮るべし撮るべし!と思っていますね。

ーーわたしも含め、若い世代は失敗をするのは凄く恐れている人が多い気がします。

市橋:あと周りのこと、とても気にしますよね。周りからウケるようなことをやろうとするんですよ。でも、考えるのをやめて、やりたいことをやったら良いと思いますよ。うちの生徒もそうですけど、やりたいことをやっている人の方が面白いです。変に周りのこと意識していると、出来上がった作品がどこかで観たことあったりつまんなかったりするんです。

ーーでも正直失敗は怖いです。

上田:僕が作った短編の台詞なんですけど、僕が妻と結婚したのは、幸せになりたいからではなくて、この人とだったら不幸になっても良いかなと思ったからなんです。僕はずっと「幸せになります!」って結婚式とかで言うことに、すごく違和感を抱いていたんですね。幸せになりたいからその人と一緒にいるんじゃなくて、不幸になってもいいと思える人だから一緒にいる。映画を志した人が折れるのって、映画を撮って幸せになろうとしていて、それが叶わないからですよね。でも、自分が不幸になってもいいなと思える仕事をすれば、不幸にならないんですよ。逆に不幸になってもいいくらい好きじゃないと続かないと思います。「失敗を恐れるな」とか、「死ぬこと以外はかすり傷」みたいな言葉って結局精神論なんですよね。その言葉を見た時は火照れると思うんですけど、燃えた炎は続かない。僕の場合、失敗が起きた時に、面白おかしく書いて毎日のようにブログを更新していました。だから、失敗が起きてもよかったんですよ、ネタになるから。失敗が起きても前に進んでいく仕組みを自分の中で生み出すのが秘訣かもしれませんね。

(取材・文・写真=阿部桜子)

■公開情報
『カメラを止めるな!』
全国公開中
監督・脚本・編集:上田慎一郎
プロデューサー:市橋浩治
出演:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山崎俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、浅森咲希奈、吉田美紀、合田純奈、秋山ゆずき
配給:アスミック・エース=ENBUゼミナール
(c)ENBUゼミナール
公式サイト:http://kametome.net/index.html

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9月11日(火)

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