戸田恵梨香が貫いた緋山美帆子の“愛情深さ” 『劇場版コード・ブルー』で見つけた進むべき道
緋山は藤川一男(浅利陽介)の結婚式で流すメッセージビデオの撮影を白石恵(新垣結衣)に強いられ、興味がないと冷たく突き返す。また、口に出して感謝を伝えたり素直に振る舞ったりすることの多い白石と並ぶシーンが多いため、余計にその強気な性格が前面に押し出されてしまう立ち位置でもある。恋人である緒方にも、料理中の口論でひどいことを言ってしまったというエピソードがある。そういったシーンの積み重ねがあるにも関わらず、戸田の演じる緋山は冷たくて性格の悪い女であるという印象は受けない。むしろ、不器用だが誰よりも愛情深く、面倒見が良く、責任感のある女性だと思わせる。それは、戸田自身が緋山と向き合い、強く感情移入してこそ成立する繊細な芝居があったからだろう。白石と築いてきた関係、後輩フェロー名取颯馬(有岡大貴)への接し方、緒方への愛情。どれをとっても、実際に1人の人間が何十年もかけて積み上げてきた強い信頼や愛情を感じさせる表情をする。それを撮影期間の数カ月間で気持ちを作り、さらには伝わるまでに繊細に演じきる器用さに感銘を受けた。
その戸田の繊細な演技が一番光ったのは、事故に遭って意識不明であった藍沢の意識が戻ったシーンである。決して大げさな芝居ではなかった。静かに、しかし力強い表情で笑顔を見せる。その緋山の笑顔だけで思わず涙がこぼれた。藍沢の容態に関して緋山が感じていた不安、意識が戻ったことへの安堵の全ての感情の調和がとれていた。これだけの表現力を持った役者がしっかり物語の軸を固め、サイドストーリーを支えることで、この映画はさらに魅力を増す。戸田演じる緋山だけではなく、藤川、冴島はるか(比嘉愛未)もまた、その軸の固さに加担している。さらに映画では、結婚を控えた患者を演じた山谷花純、雪村双葉(馬場ふみか)の母親役を演じたかたせ梨乃など、ゲスト俳優までがその実力をふんだんに発揮し、とてもフィクションとは思えない繊細な気持ちの動きを描き出した。
小さな物語が繋がりあって大きな物語を描く。ドラマで培ったその手法を映画でも取り入れ、さらに魅力的なフライトドクターとフライトナースの現場の姿を映し出した。彼らの決断や成長とともに、自分の人生を振り返るきっかけとなる前向きな作品であった。
■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter
■公開情報
『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』
全国東宝系にて公開中
出演:山下智久、新垣結衣、戸田恵梨香、比嘉愛未、浅利陽介、有岡大貴(Hey! Say! JUMP)、成田凌、新木優子、馬場ふみか、新田真剣佑、かたせ梨乃、山谷花純、丸山智己、杉本哲太、安藤政信、椎名桔平
監督:西浦正記
脚本:安達奈緒子
音楽:佐藤直紀
プロデュース:増本淳
主題歌:Mr.Children「HANABI」(TOY'S FACTORY)
配給:東宝
(c)2018「劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」製作委員会
公式サイト:http://www.codeblue-movie.com/