すべての地獄を生きる者たちよ、シコを踏めーー小川紗良の『菊とギロチン 』評
『リバーズ・エッジ』や『聖なるもの』『ウィッチ・フウィッチ』などの映画作品から、テレビドラマ『崖っぷちホテル!』(日本テレビ系)にも出演し、メジャー/インディーズを横断するかたちで、目覚ましい活躍を見せる女優・小川紗良。彼女は監督業でもアクティブな活動を見せ、手がけた作品の『最期の星』が「第40回ぴあフィルムフェスティバル」に入選、さらに『BEATOPIA』の劇場公開が決定している。女優として、監督として、瀬々敬久監督の最新作『菊とギロチン』を、小川はどう捉えたか。(編集部)
映画を志したきっかけ
高校1年の春、教室で配られた自己紹介シートの「興味のあること」の欄に、私はなぜか「映像」と書いた。映像なんて作ったこともなかったのに。それから何日かして担任の先生に呼び出され、突然「ドキュメンタリーを撮ってみないか」と言われた。この一言が私を映像の世界に連れ出すことになる。それからの3年間、体育祭、文化祭、修学旅行など、私はあらゆる行事のドキュメンタリーを撮って過ごした。とにかく、楽しんでくれる友達の姿を見るのが好きだった。そして大学に入り、自分で脚本を書き仲間を集めて映画を撮った。今度は、まだ見ぬ誰かの心を動かしてみたいと。私の映画作りの原点には、無我夢中に学校行事を撮り続けていた高校時代がある。
私が映画を日常的に観るようになったのは、高校に入って女優業を始めてからだ。初めは好きな女優を追いかけて、そのうち好きな監督ができるとそこを掘り下げて……と、名画座に通いながら邦画を中心に観ていた。だからなのか、私は邦画の持つ空気感が好きだ。
先日韓国の映画祭に行って、「日本映画はガラパゴス化している」「原作ものが多すぎる」などの指摘を受けた。海外の映画祭では、こうして日本映画全体に対する意見も浴びることがあるのかと、新鮮な体験だった。確かに、韓国の方々のおっしゃる通りだと思う。日本の映画館に行けばいつも漫画原作映画が何本も上映されているし、それらのほとんどが国内興行で盛り上がって終わっていく。漫画やアニメの力が強い日本では、映画がそちら側に流れていくのも無理はないし、それで面白い作品ができて楽しむ人がいるのならば、それはそれで良いと思う。私も好きな漫画原作映画はいくつもある。
ただ、ときどき海外の素晴らしい作品を観ると、日本でもこういう作品をもっと観れないものかと、願わずにはいられないことがある。映画の芸術的価値が高く、監督の作家性が活かされ、それでいて多くの人に伝わる普遍性を持った作品が海外にはたくさんある。今の日本でそういった作品を作るには、2つの方法があると思う。1つは、日本映画界トップレベルの監督が作ること。そしてもう1つは、大手配給や制作会社を通さずにインディーズで作ることだ。後者は予算集めやスタッフィング、キャスティングなど多大な労力を要するが、それでも作り上げる監督の強い意志があれば、とても強度の高い作品が出来ると思う。『菊とギロチン』がその良い例だ。最近ではそういった作品がインディーズ映画界から出てきて、口コミで全国や海外映画祭へ広がっていくという例も時折見られる。「ガラパゴス化」と言われる日本映画界の突破口は、案外インディーズ映画にあるのかもしれない。