新シリーズ本来のコンセプトが明らかに 『ジュラシック・ワールド/炎の王国』の“いびつさ”を読む

『ジュラシック・ワールド』続編のいびつさ

 ここで、スティーヴン・スピルバーグ監督による1作目と2作目の関係に注目したい。第1作が大ヒットして4年、多くの観客が続編を望むなか、スピルバーグ監督が発表した『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997年)は、やはり王道展開からはなれたダークでいびつなバランスの作品だった。面白いのは、最も盛り上がるクライマックスの場面が前半部のラストに用意されているということだ。この作品は、そういったトリッキーな構成が裏目に出たのか、不名誉ながら「最低映画賞」と呼ばれる、ゴールデンラズベリー賞にノミネートされている。そのことからも分かるように、『ジュラシック・パーク』の興奮をもう一度味わうことを期待していた観客の思惑からは大きく外れていたことは確かだろう。

 だが私は『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』公開当時、この娯楽作品としての何とも言えない奇態さに、むしろ1作目よりも強い衝撃を受けた。レコードでいえばB面であり、曲調でいえばマイナー・コードだが、エンターテインメントにも関わらず裏道を行く雰囲気が、とてつもなくかっこよく感じたのだ。これはスピルバーグ監督が幅広い作家性を持っていることの証拠であり、反逆的な感性を持っていることをも示しているように思える。

 4作目からの本シリーズがやろうとしていることも、まさにその再現であろう。つまり本作『ジュラシック・ワールド/炎の王国』は、前作が『ジュラシック・パーク』を再びやり直したように、ダークで深い作家性を示した『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』を再びやり直しているのだ。それが、今回は製作と脚本にまわったコリン・トレボロウの構想したシリーズのねらいであったはずだ。

 そして、そのために必要だったのが、『永遠のこどもたち』(2007年)や『怪物はささやく』(2016年)という、作家性を強く押し出すタイプの映画監督J・A・バヨナだったというわけだ。彼は早くからハリウッドで評価されながら、複数の大作映画を断って、自分に合った、意味のあると思われる企画に応じる映画作家だ。コリン・トレボロウは、彼の能力を活かすために、脚本をバヨナ監督の特性に合わせたものにしたと語っている。遺伝子に関わる人間のおそろしさと、企業のあくなき利益追求が引き起こす悲劇など、社会的なメッセージが前作よりもはるかに鮮烈になっているのも、このためではないだろうか。

 その結果、本作は『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』同様、娯楽大作としていびつなものになった。しかしそれは目論見通りなのである。このおかげで、本作は一つの映画作品として、飛躍的に見るべきところの多いものになったのは事実であろう。ここまで思い切らなければ、こういうタイプの作品になるはずがない。

 おそらく本シリーズは、少なくとももう1作は撮られることになるのではないかと思われる。シリーズ作品には、やはりリズムを崩す本作のような、異端的な役割を担う作品がなければ、単調でつまらないものになってしまう。その意味でも本作の存在価値は大きいといえる。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ジュラシック・ワールド/炎の王国』
全国公開中
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、コリン・トレボロウ
製作:フランク・マーシャル、パトリック・クローリー、ベレン・アティエンサ
キャラクター原案:マイケル・クライトン
脚本:デレク・コノリー、コリン・トレボロウ
監督:J・A・バヨナ
キャスト:クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード、B・D・ウォン、ジェームズ・クロムウェル、テッド・レヴィン、ジャスティス・スミス、ジェラルディン・チャップリン、ダニエラ・ピネダ、トビー・ジョーンズ、レイフ・スポール、ジェフ・ゴールドブラム
配給:東宝東和
(c)Universal Pictures
公式サイト:http://www.jurassicworld.jp/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる