『詩季織々』コミックス・ウェーブ・フィルムを訪問 “美しい背景”描くための工夫とは?
美術監督のアイデアが生活感を生む
友澤優帆氏と小原まりこ氏は、美大生時代にアルバイトで同社に入り、現在はそのまま社員として働く同期だ。美術監督を務めるのは初めての経験だが、仲の良い2人は力を合わせて取り組んでいるという。
『小さなファッションショー』は、ファッションモデルとして活躍する姉と、服飾の専門学校生である妹の物語だ。2人は同じマンションで生活しているのだが、その部屋の模様を描くに当たって、友澤氏と小原氏は多くの話し合いをしたという。
「正直、自分たちとは住む世界が違う姉妹なので、『おしゃれな女性はどんな部屋に住んでいるのだろう?』と想像する部分が多かったです(笑)。ファッション誌などを研究しつつ、『主人公の姉はこういう性格だから、きっとこういうものを置いているに違いない』『外ではバリバリ活躍しているけれど、家では可愛いものが好きに違いない』などと話し合いながら、ディティールを詰めていきました。たとえば、オイル標本を描いてみたり。あと、私には姉がいるので、そこも重ねてみたりしました。一方で妹は、モノ作りをする人なので、描きかけのデザイン画があったり、教科書が置いてあったりする感じです」(友澤)
「本作は衣食住行の“衣”をテーマにした作品ですが、実はあまり服を描きこむことはなくて。ただ、姉が行く撮影スタジオでは、背景にも洋服が描かれているので、それが変なバランスにならないようには工夫しました。洋服だけを描く場合、少しでもバランスが崩れるとどんなに素敵なデザインでもダサく見えてしまうので」(小原)
アニメでは、監督の指示にあるもの以外は背景に描かないのが普通だが、コミックス・ウェーブ・フィルムの場合は、上記のように美術監督の裁量で色々なものを描き足すことが多く、そこが生活感のある背景画を生み出す秘訣となっているようだ。
「キャラクターの動きに合わせて、逆に現実にあるものを描かないこともあります。このベンチが邪魔だなとか、この看板はいらないなとか、シーンに合わせて色々と変えていくのも美術監督の仕事です。とはいえ、今回はかなり忠実に広州の街並みを再現しているので、もし行ったことがある方なら『このシーンはあそこかな?』と感じてもらえるはず」(友澤)
取材当時、2人はシーンごとに分担しながら、美術監督としてスタッフたちに指示を出し、『小さなファッションショー』の完成を目指していた。「どう描くべきか、言葉で伝えることの難しさを知りました。自分の中でしっかりとイメージを固めることが大切なんだと、改めて思いましたね」(小原)と語っていた。その仕上がりはどんなものになるのか、とても楽しみである。
多くの工程を経て、はじめてアニメは動く
市ヶ谷のスタジオでは、背景のほか、CGや撮影も行っている。中でも興味深かったのは、CGの使い方だ。たとえば、奥行きのある背景のシーンで、キャラクターが手前に向かって歩いてくる場合などに、CGが用いられている。この場合、手描きの背景を遠い順から、立体のモデルの中にレイヤー構造で配置していくのだが、こうすることでキャラクターの動きに合わせてカメラが進むにつれて、計算通りにそれぞれの背景もまわりこみ、自然な印象となるのだ。CGというと、3DCGのようなものをイメージしがちだが、現在のアニメではちょっとしたシーンにも活用されているのである。
また、撮影とは、荻窪スタジオで描いた作画を、市ヶ谷スタジオで描いた背景と合成・加工する工程を指しており、ここではじめてアニメーターたちは、自分たちが描いた絵がどんな景色の中でどんな風に動くのかを確認することができる。シナリオ、コンテ、レイアウト、原画、動画、背景、CG、撮影、アフレコなど、多くの工程を経て、はじめてアニメは動き出すのだ。
コミックス・ウェーブ・フィルムの職人たちが、その技術を注ぎ込み、中国の人々の心を形にした『詩季織々』。その見事な仕上がりを、ぜひ映画館のスクリーンで確かめてほしい。
(取材・文=松田広宣)
■公開情報
『詩季織々』
8月4日(土)、テアトル新宿、シネ・リーブル池袋ほか公開
主題歌:ビッケブランカ「WALK」(avex trax)
配給:東京テアトル
2018年/日本/カラー
(c)「詩季織々」フィルムパートナーズ
公式サイト:http://shikioriori.jp/
『陽だまりの朝食』
監督:イシャオシン
作画監督:西村貴世
音楽:sakai asuka
キャスト:坂泰斗、伊瀬茉莉也
『小さなファッションショー』
監督:竹内良貴
作画監督:大橋実
音楽:yuma yamaguchi
キャスト:寿美菜子、白石晴香、安元洋貴
『上海恋』
監督:リ・ハオリン
作画監督:土屋堅一
音楽:石塚玲依
キャスト:大塚剛央、長谷川育美