『詩季織々』生きているような“ビーフン”はどう描かれた? コミックス・ウェーブ・フィルムを訪問

コミックス・ウェーブ・フィルムを訪問

 新海誠監督の『秒速5センチメートル』や『君の名は。』などの作品で知られるアニメ制作会社のコミックス・ウェーブ・フィルムが、中国のアニメ制作会社であるハオライナーズとの合作で手がけたアニメ映画『詩季織々』が、8月4日に公開される。

 『詩季織々』は、『陽だまりの朝食』『小さなファッションショー』『上海恋』という3つの短編からなる青春アンソロジー。中国における生活の基本とされる衣食住行(中国では“行”、すなわち移動することも生活の一部と考えられている)をテーマに、それぞれ北京、広州、上海を舞台としたヒューマンドラマが描かれる。再開発によって変わりゆく中国の風景を、詩情溢れるノスタルジックなタッチで切り取った意欲作だ。

左から、西村貴世と大橋実

 リアルサウンド映画部では今回、コミックス・ウェーブ・フィルムのスタジオを取材。前編では、作画などの手描きの作業を主に行う荻窪スタジオにて、『陽だまりの朝食』の作画監督を務めた西村貴世と、『小さなファッションショー』の作画監督を務めた大橋実に話を伺うとともに、稻垣康隆プロデューサーにスタジオ内を案内してもらった。

まるで生きているような“ビーフン”を描くために

 今回のプロジェクトを行うことになったきっかけは、新海誠監督の『秒速5センチメートル』だったという。ハオライナーズの代表取締役兼ディレクターで、本作では『上海恋』の監督を務めているリ・ハオリンは、10年ほど前に『秒速5センチメートル』を観て大きな感銘を受けて、ハオライナーズを立ち上げた2013年よりコミックス・ウェーブ・フィルムに共作の打診を続けてきたそうだ。『上海恋』は、リ・ハオリンの自伝的作品でもあり、作中にも登場する石庫門(上海の中洋折衷型の伝統的建築様式)の街並みをアニメーションで残したいという強い要望があったという。『陽だまりの朝食』の監督を務めたイシャオシンもまた、新海誠監督のファンで、そのアニメーションの表現に大きな影響を受けた1人だ。

 『秒速5センチメートル』でも作画監督を務めた西村は、「イシャオシン監督は、新海誠監督の作品に感銘を受けたとのことだったので、何を求めているのか、どんな表現がしたいと考えているのかは理解しやすかったです。監督自身の思い出と重なる作品とのことだったので、まずは監督自身が懐かしさを覚えてくれるような絵になるように、キャラクターデザインは適度にリアルで写実的なイメージを落とし込むことに注力しました」と振り返る。

 しかし、実際に中国を訪れるなどの取材を重ねるものの、中国人が考えるノスタルジーを表現するには苦労も多かったという。「例えば、街の人の服装ひとつ取ってもそうだし、風習ひとつ取ってもそうですが、我々が想像する“一昔前の中国の景色”はすごく曖昧なものなんです。多くの資料を用意してもらいましたが、食べる姿勢が違うとか、寒くても帽子は被らないとか、ディティールに差異が生まれてしまうことはたくさんありました。特に『陽だまりの朝食』は“食”をテーマにした作品で、作中に出てくるビーフンも主役なのですが、そもそも汁物のビーフンがどういう食べ物なのかが日本人にはイマイチわからない。私ひとりの手には余る仕事だったため、ビーフンのシーンのためだけに大橋実さんにも協力してもらいました」

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 『陽だまりの朝食』で調理シーンのみの作画監督をすることになった大橋は、実際に“汁物のビーフン”を出す店で調理を見学し、味わい、その後も“どんぶりとレンゲ”と格闘する日々を送ったという。「ラーメンでもなければ、うどんでもない、独特の透明感と質感を表現するのは本当に大変でした。しかし、本作における調理シーンは、言ってみればアクションシーンであり、大きな見せ場です。24コマ撮りのリッチなアニメーションを駆使したスローモーションの表現で、躍動感のある絵になるように力を注ぎました。あれほど食べ物を中心に据えた絵を描くことはなかなかないので、とても貴重な経験だったと思います」。かくして、ビーフンの調理シーンは、中国のスタッフ陣からもその手腕を絶賛されるほど、流麗かつ活き活きとしたアニメーションに仕上がった。西村は、「本当に大橋さんにお願いして良かった」と笑顔を浮かべる。

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