いま撮る意味、観る意味がある作品に 『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』に込められたメッセージ
男女同権を目指す女性たちによる多くの運動は、現代においてですら偏見にさらされることがある。女性であるということで不当に低い待遇を受ける事案が多いことは歴史的な事実であり、改善を求めることは当然の主張であるにも関わらず、男性至上主義者によって、“男嫌いの女”だったり、“逆差別”というようなレッテルを貼られることが少なくない。ビリー・ジーンは、本作において男性を攻撃したり、自分たちが男性よりも優れていると指摘しようとするのでなく、同じように尊敬を受けたいだけだという主張をする。それは「ウーマンリブ」や「フェミニズム」の根本的な理念である。本作は、より自由に生きようとする多くの女性たちが突き当たる、抑圧や偏見という障壁を描く。その壁は、声をあげ戦うこと無しには打ち破れないものなのだ。
同性婚をしている俳優アラン・カミングが本作で演じている、おそらく同性愛者であろうスタイリストは、本作のビリー・ジーンに「これは手始めだ。いつか我々が自由に愛せる日が来る」と声をかける。ビリー・ジーンもまた、後に同性のパートナーを持つことになる同性愛者だった。もちろん現在も続いている女性の権利向上という戦いとともに、本作は多様な性的指向への社会的理解を勝ち取ろうとする、これからの戦いをも暗示させているのだ。
ビリー・ジーンが美容師の女性マリリンと恋におちる、サンディエゴの夜の場面は素晴らしい。ナイトクラブで、トミー・ジェイムス&ザ・ションデルズの「クリムズンとクローヴァー」("Crimson and Clover")がかかるなか、媚態を示しながら踊るマリリンを見つめるビリー・ジーン。それぞれの体には、赤と青の照明が当てられている。そして、ついにネオンサインの赤と、青い照明が交じり、紫色に照らされるふたり。そのエロティックな色合いは、空に映る日没後の薄明かりの色と重なっていく。『ラ・ラ・ランド』や『アメリカン・ハッスル』のカメラマン、リヌス・サンドグレンの撮影が見事だ。
このように観客に我を忘れさせ、没入させるようなシーンこそが、映画に力を与える。同じく同性愛を美しく表現した『ムーンライト』がそうであるように、この優れた描写があることで、本作の価値は何倍にも高まっているといえよう。それが不倫の愛であり、パートナーを裏切っているということは別問題として、本作に与えられた美しさは、社会における多様的な愛への偏見を取り去る一助となっているように思われる。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
TOHO シネマズシャンテほかにて公開中
監督:ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス
製作:ダニー・ボイル、クリスチャン・コルソン
脚本:サイモン・ボーフォイ
出演:エマ・ストーン、スティーヴ・カレル、アンドレア・ライズブロー、ビル・プルマン、アラン・カミング
配給:20世紀フォックス映画
2017年/アメリカ映画
(c)2018 Twentieth Century Fox
公式サイト:battleofthesexes.jp