『ウタモノガタリ』が示す、ショートフィルムの可能性 SSFF&A審査員が解説

 1999年に俳優の別所哲也が自ら立ち上げた、日本初の国際短編映画祭<アメリカン・ショート・ショート>を前身にスタートし、今年で20周年を迎えた<ショートショート フィルムフェスティバル&アジア>(※以下、SSFF&A)。アメリカのハイクオリティなショートフィルムを日本に紹介するところから出発した同映画祭は、回を重ねるとアメリカのみならず世界中の作品と新たなクリエイターを紹介する場所へ。2004年には米国アカデミー賞公認映画祭に認定され、映画祭のグランプリ受賞作品が翌年度のアカデミー賞短編部門のノミネート候補になるなど、回を重ねるごとに国際的な評価を得て、その地位を確固としたものにしている。

 作り手としては世界への扉が開かれた映画祭としてその存在は大きく、実際、『JUNO/ジュノ』『マイレージ、マイライフ』のジェイソン・ライトマン監督や、『Oh Lucy!』の平柳敦子監督らSSFF&Aでの受賞をきっかけに世界へと飛躍する映像作家たちが次々と現れている。また、ここまで続いていること自体がすでにその存在の大きさを物語っているといってもいいだろう。

 そのSSFF&Aの魅力はひとことでは言い表せない。ただ、今回、ノンフィクション部門の審査員ということで少しだけ携わることで感じたのは、同映画祭はいい意味で柔軟で変化を恐れない。それこそが魅力のひとつではないかということだ。

 同映画祭が始まって現在までの20年を見ても、映像をめぐる環境は大きく様変わりしている。映画作りにおいてはフィルム撮影がほぼなくなり、デジタルが主流。誰もが手軽に動画をとることができる時代に突入した。見る側の環境としても3D作品、4Dもあれば、ホームシアターの環境も激変しており、4Kや8Kの映像も出てきて、さらにはVR(仮想現実)も登場している。

 こうした時代をめぐる映像と映画の環境及び社会情勢の流れに沿ってSSFF&Aは変化してきている。常に変化と進化を繰り返している。例えば2008年にはいち早く環境問題に目を向け、「ストップ!温暖化部門」(※のちに「地球を救え!部門」に改称)を設立。2016年にはミュージックビデオ部門、企業などのブランディングを目的としたブランデッド・ムービーの特集、今年もノンフィクション部門、VR部門という新部門が設立されている。

 つまり映画祭自体が変革やチャレンジを恐れることなく、新しいものはどんどん取り入れて、ショートフィルムの間口を自らの手で開拓して押し広げているのだ。この間口を広げる行為は同時に、あらゆるジャンルのクリエイターたちが参加可能であることにもつながっている。コマーシャル、映画、テレビ、そのほか、これだけさまざまなジャンルの映像作家が同じフィールドで一堂に会する映画祭は、あまりないのではなかろうか?

 新たなチャレンジや変化を恐れない精神は、EXILE HIROとSSFF&AISA代表の別所哲也、作詞家の小竹正人によるプロジェクト<CINEMA FIGHTERS project>にも、しっかりと受け継がれている。人気漫画や話題の小説という物語がすでに完成されたものの映画化が全盛のときにあって、新進気鋭の映像作家たちが詞の世界を脚本に仕立て、ショートフィルムという映像に落とし込む。これは作り手サイドからいえばなかなか難しい試み。その一方で、作り手が自分のイマジネーションを抑えることなく存分に発揮することもできる幸せな場ともいえる。

 実際、<CINEMA FIGHTERS project>の最新作となる『ウタモノガタリ』は、監督たちそれぞれのオリジナリティと才気がほとばしる。6人の監督による6編のショートフィルムで構成されているが、個人的に最も刺激的な作品だったのは、石井裕也監督による『ファンキー』だ。

『ファンキー』

 亡き母への想いが消えない謎のファンキー集団のリーダーに訪れる奇跡を描いた本作だが、前半は石井監督の初期作品を彷彿とさせるような、ちょっとはにかむぐらいの笑いがちりばめられたコメディ。それがある1点の大きな場面転換によって、あれよあれよという間に母と子の情愛が滲み出る悲喜劇へと転じる。その用意された1点の大きな場面転換は、アナログながらも映画らしい表現。デビュー当時にあった彼のいい意味でのハチャメチャさやいい加減さを、ショートフィルムの形で完全に取り戻しているのがおもしろい。

『アエイオウ』

 一方、安藤桃子監督による『アエイオウ』は、彼女の社会を切り取るまなざしの鋭さが十分に発揮された1作といっていい。孤独な若き自衛隊員が、目の前に現れた老婆の話にただ耳を傾けるというシーンだけでほぼほぼ構成しながら、個人の幸せから戦争の予兆までを感じさせる内容に仕立てた手腕はみごとというよりほかにない。

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