伊藤峻太×地曵豪×ウダタカキが語る、自主映画『ユートピア』の可能性 「“絶対にできないことはない”を証明した」

『ユートピア』監督×地曵豪×ウダタカキ鼎談

伊藤「VFXに5年かかると事前にわかっていたら、心が持たなかった」

ーー撮影が行われたのは2013年だったんですよね。撮影終了後、公開まで5年もの月日が過ぎていったわけですが、地曵さんとウダさんは作品の進捗具合や公開時期など気になりませんでしたか?

地曵:僕は半年に1回とか1年に1回のタイミングで、伊藤監督に「何やってんの?」「ちゃんと生きてるの?」って嫌がらせメール送ってました(笑)。

伊藤:嫌がらせメールって言っていますけど、基本的に励ましや激励のメールでしたよね。生きてるかという生存確認と、「ここまできたら限界までこだわれ、俺はいつまでも待つぞ」というような。

ウダ:2年くらい前にやっと公開するという情報が出てきたんですけど、僕はそれでも「まあ、どうかな……」と思っていました(笑)。

――撮影が終わってから公開までに5年もかかったのはVFXの作業に時間がかかったということなのでしょうか?

伊藤:そうですね。コンピューターの能力の限界もあるし、合成やCGで理想の画を目指す上で試行錯誤は避けられず、基本的に一発でOKになることはほとんどないんです。それに例えば、10秒間のカットをレンダリングしようとしたら、40時間とかかかっちゃうこともある。しかもその中でエラーが起きていることも結構あって、そうなってしまったらまた40時間やり直しなんですよね。もしもVFXに5年かかると事前にわかっていたら、心が持たなかったと思います。1年で終わらせようという気持ちでやって、結果的に5年かかってしまった感じなので……。振り返るとゾッとしますけど、ゴールしようと思ったら意外とまだで、ずっと走り続けていた感覚なんですよね。

地曵:実は今日伊藤監督と対談をすると聞いていたので、予習として監督が高校生の頃に撮った『虹色★ロケット』をもう1回観直してきたんです。そうしたら『ユートピア』とテーマが共通していてビックリしました。どちらの作品にも“世界は何かの犠牲の上に成り立っている”という概念がある。しかも両方とも主人公に対して「いつも笑ってたよ」という同じセリフが出てくる。世界を変える変えないみたいな話はひとまず置いておいて、どんなにつらい世界でも笑って生きていかなければいけない、という共通したテーマが伊藤監督にはずっとあるんだなと思って。それを17歳の伊藤監督が考えていることがすごいと思いました。

伊藤:『ユートピア』の公開前に『虹色★ロケット』がトリウッドで再上映されて、実は僕もそこで10年ぶりぐらいに観直したんですよ。自分は出演もしているので恥ずかしい気持ちもあるんですけど、10年経って冷静に観られるようになって、共通するセリフがあるというのは確かにそうだなと思いました。中でも最も共通しているのが、“作る”ということ。『虹色★ロケット』は、主人公の少年少女たちがアーティスティック・ギャラクシー科という新しい科を作る話で、今回の『ユートピア』は、もうほとんどそれ自体がテーマになっていて、新しい世界を作る話なんです。

ウダ:『ユートピア』も一番最初は高校を卒業したぐらいのときにアイデアが浮かんでいるわけじゃない? そこから約10年経つ間に自分の考え方とかは全く変わっていないの? ここはこうじゃなかったなとか。

伊藤:それは結構ありますね。『虹色★ロケット』を撮ったのが17歳とか18歳。『ユートピア』を作ろうと思って構想し始めたのが19歳だったんです。今もう31歳になりましたけど、やっぱり完成した映画を観ても「19歳の映画だな」って感じるところはすごくありますね。まあ5年前に撮影は終わっているので、少なくとも31歳の人が作った映画ではないなと。でもそこまで客観的に観れないところもあって、それは次の作品を撮ってようやく分かってくるのかなと思います。そう言えば、ウダさんに初めてシナリオを読んでもらったときに「ユートピア人の友情の部分がさっぱり分からない」と言われたんですよね。それを言われたときに「確かに」と思って。

ウダ:作品のテーマなのに俺ヒドいこと言ってるね(笑)。

伊藤:でもそれは作品を観て理解できるかどうかというよりも、彼らに感情移入できないっていう意味だったんですよね。僕が19歳の頃に「これがいい」と思ってそのまま進めてきたものが、26歳になったら実際変わっていて。当時一緒に映画を撮っていた仲間との関係性も違うものになっていたので、友達というものに対しての考え方も変化していたんです。だけど、作品では19歳のときの僕が思う友情や理想が入っているから、僕も混乱しながら撮っているところもあって、編集段階でかなりカットしている部分もあるんです。構想を考えていた19歳のときの僕と、撮影を終えて編集をしているときの26歳以降の僕の考え方の違いに気づけたのは、そのウダさんの意見のおかげだったかもしれません。

ウダ:『ユートピア』の脚本を初めて読んだとき、僕は学園モノじゃないかなと思ったんです。SFの壮大な話ではあるけれど、ユートピアという学園があって、俺がクラスの先生で、地曵くんが用務員のおじさん(笑)。そこでどう考えても矛盾があるという校則を僕は生徒たちに教えていて、クラスの生徒たちもみんな盲目的に信じようと思ってやっているんだけれど、カリスマ用務員のおじさんが校則を破ってしまって、その瞬間にみんながユートピア学園の校則に対して「本当にこれで合ってたの?」と気づく。それによって、今まで仲が悪かった子たちやいじめられていた子もみんな仲良くなっていくという。伊藤さんはそういう“人が仲良くなること”を撮りたい人だと思っていたから、「何でこうなるの?」と感情移入できない部分に対してツッコんだんでしょうね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる