馬に乗った兵士の“英雄の物語”はなぜ映画化された? 『ホース・ソルジャー』に見るアメリカ文化

『ホース・ソルジャー』に見るアメリカ文化

 本作で描かれた物語の後、曖昧な根拠によってアメリカはイラク戦争へ突入し、アメリカ兵による現地での暴行殺人や刑務所での虐待など、様々な疑惑や犯罪行為が国内外で報道され、アメリカ政府や軍の権威は失墜していくことになる。そんななか2009年に明らかになり本作の題材となった、同時多発テロ初のタリバン勢力との少数による作戦行動は、多くのアメリカ国民にとって誇りに思えるようなものになったことは想像に難くない。

 本作では、女性や小さな娘たちが脅されるシーンによって、タリバン政権の悪辣さが描写されている。タリバンが過激な思想と民族主義によって、マザーリシャリーフで虐殺を行い、市民から娯楽を遠ざけ、女性から職と学問を奪うなどの虐待行為をしたことは事実だ。当時のアメリカ政府によるタリバンへの攻撃の大義名分は、この「人権侵害」と「アメリカへの新たなテロ行為の抑止」であり、本作では劇中でそれらを何度も描き語らせることによって、この戦いにおけるアメリカ軍が「正義」の側であることを強調している。

 ただ、本作で意識的に描かれていない都合の悪い部分もある。アメリカ政府は冷戦時代末期、ソ連のアフガニスタン侵攻に対抗するべく、イスラム教にのっとって戦う兵士「ムジャヒディン」に多額の資金と兵器を援助していたという経緯がある。本作に登場するドスタム将軍率いる北部同盟もそうだが、タリバンにもそのムジャヒディンの勢力は流れている。そしてCIAは当時、ウサマ・ビン・ラディンらの手を借りて、イスラム過激派の青年数万人を傭兵として募らせ、ムジャヒディンを助けたという事情もあるように、アメリカ同時多発テロ事件を起こした「アルカイダ」もまた、その支援によって生まれているのだ。

 つまり本作で描かれる戦いは、飼い犬に手を噛まれたアメリカによる報復措置と見ることもできる。 本作でネルソン大尉たちは、敵の兵士や近代的な装備に苦しめられるが、それを育ててきたのがアメリカ自身であり、そんなアメリカの平和を守るために彼ら12人は命を投げ出して前進する。その光景は制作者の意図を超え、ある意味で不気味なものとして映っている。

 劇中でも語られるが、イスラム過激派の兵士が自爆テロを行い、死を恐れず戦うのは、死んだ後に天国に行けることを信じているからだという。この世での戦いは天国に行くための手段に過ぎない。彼らは実体のないもののため指導者に奉仕しているが、一方でアメリカの兵士たちが危険な前線へと向かった勇気が称えられ、それがグラウンド・ゼロのブロンズ像というイメージや、クリス・ヘムズワースというイメージに還元されているという事実は、実体性のなさという意味においてはその鏡像関係にあると思える。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ホース・ソルジャー』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
監督:ニコライ・フルシー
製作:ジェリー・ブラッカイマーほか
脚本:テッド・タリー、ピーター・クレイグ
原作:ダグ・スタントン『ホース・ソルジャー』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
出演:クリス・ヘムズワース、マイケル・シャノン、マイケル・ペーニャ、トレバンテ・ローズ
提供:ギャガ、ポニーキャニオン
配給:ギャガ
原題:12 Strong/2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/130分/字幕翻訳:風間綾平
(c)2018BY HS FILM,LLC. ALLRIGHTSRESERVED.
公式サイト:gaga.ne.jp/horsesoldiers

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