CMを短編映画に変えてしまう存在感! 文学的香りを放つ俳優・井之脇海
そうした黒沢清作品のテイストにも連なる井之脇の魅力が溢れているのが、今作『デッドフレイ~青い殺意~』である。演じるのは「酒浸りの父に嫌悪感を抱く」「対人関係が苦手で、スマホの人工知能アプリにだけ心を開く」な青年役。画像加工の仕事に就き、失踪中の夫が旅行しているように見せる写真を作ってほしいという奇妙な依頼をする謎の人妻(ミムラ/美村里江に改名)と出会い、徐々に惹かれていく。
ちなみに、タイトルの『デッドフレイ』は「死の沼」と呼ばれる世界最古の砂漠のこと。「死んだように生きる」日々からかすかに希望を見出す物語に、井之脇ほどピタリとハマる若手俳優はいないのではないか。
『ひよっこ』や『おんな城主 直虎』で見せる素朴で物静かで優し気な印象も魅力的だが、井之脇が、より強く輝くのは、「家族崩壊モノ」と「サスペンス」。ありがちな「塩顔イケメン」なんて言葉で表現したくない、静謐で危うく、哀愁漂う演技は必見だ。
■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。