『トドメの接吻』山崎賢人の“予想外の死”は何をもたらす? 加速する面白さを分析
『トドメの接吻』(日本テレビ系)がなんだかものすごく面白い。今期最大の大穴と言える日曜22時30分開始のこのドラマ、キャスト、演出、脚本全てが絶妙だ。山崎賢人、門脇麦、新田真剣佑、菅田将暉といった若手キャスト陣による「今最も勢いのあるドラマ」というだけでは語れないものがある。その魅力を分析したい。
まずキャストは言うまでもないだろう。軽やかに時間も空間も超越した謎のキャラクターを演じる菅田将暉の好演、妖艶さと純朴さを併せ持つ魅力を存分に発揮し、ヒョコヒョコと歩く姿が可愛い門脇麦。ふたりの魅力ももちろんだが、何より今までのさわやかイケメン像を覆し、イケメンであることは間違いないが、どこまでも飄々としたクズ男役をコミカルに演じきっている山崎賢人が面白い。回を重ねるにつれてその無駄にコミカルな動きは増し、6話の岡田義徳が元祖“壁ドン”とも言われている山崎に、逆に壁ドンをする前後の山崎の動きには思わず目が釘付けになった。
彼が演じる主人公・堂島旺太郎自体が、実に魅力的な役回りでもある。辛い過去を抱え、それを表に見せず鮮やかに恋を仕掛ける男。過去も愛も捨て、金と権力こそが全てと野心だけに生きていると見せかけて、母親や死んだ弟のために涙を見せる純情さも垣間見せ、過去を捨てたはずなのに、本当は誰よりも過去に縛られ、固執し葛藤する。その姿は、わりとオーバーアクションのポジティブなクズ男という従来の恋愛物語における王子様像を覆すキャラクターであるのに関わらず、人の心を掴んで離さない。
彼を取り巻く2つの恋愛も、異色と見せかけて多くの女性を虜にする王道路線をしっかり押さえているのもミソだ。旺太郎は100億のご令嬢・美尊(新木優子)とキス女・宰子(門脇麦)という2人のタイプの異なる女性相手に、「初めて男の人を守ってあげたいって思ったの」や「静かに暮らしていた私の世界に土足で踏み入ろうとするのはやめて」と言わせてしまうようなピュアな女の子が落ちる王道の恋愛パターンを踏襲し、彼女たちの抱える壁を軽々と越えていく。だが、壁を越える主人公自体は、「酒に溺れても愛には溺れない」と言うように、単に幸せを手に入れるための手段として、彼女たちを落としているにすぎないというところがこのドラマの斬新さである。
そして、このドラマ構造が視聴者の心を鷲づかみにして離さない一番の理由は、視聴者の視点が、どの登場人物よりも最も物語を俯瞰できる立場にあるということだ。
視聴者は大分早い段階で、主要登場人物が1つの過去「12年前の海難事故」を同じトラウマとして共有し、時折その話をしてさえいることを知ることのできる状況にある。しかし、登場人物たちはなかなかその事実に気づかない。旺太郎と宰子の2人が、1話の終わりで交通事故に遭う少年を必死で助けようとするのも、彼らが互いに気づいていないだけで、同じ「光太を救えなかった」という過去のトラウマがその動機であるからだ。加えて、キスによって過去に戻っていたために、その少年が何もしないとどうなってしまうかを知っているから行動を起こすのだが、そのことに気づくことができるのは視聴者にとっても登場人物にとってもまだ先のことなのである。その全ての謎が明らかになり、彼らが大方の状況を理解したところで起きたのが、予想外の「主人公の死」だったと言える。