現役看護師が見た『アンナチュラル』の面白さ 法医学へのドラマ的アプローチを考察

現役看護師が『アンナチュラル』を考察

 第5話では、UDIラボに溺死した婚約者の解剖を依頼しにやってきた、鈴木(泉澤祐希)が、葬儀場で真犯人である妻の友人を突き止め、包丁で刺すという凶行に出た。最後、馬乗りになって目の前でとどめを刺そうとしている様子を見ても止めることはしなかった中堂に対し、「どうして止めなかった」と詰め寄るミコトに、「殺すヤツは、殺される覚悟をするべきだ」「想いが遂げられて本望だろう」と淡々と語るシーンは、中堂の歪んだ倫理観の表れと捉えられる一方、切なげに放心した表情からは、恋人を殺害された自身の怨念とやるせなさが重なったようにも映った。

 訳ありの2人の法医解剖医を含め、医大生で週刊ジャーナルの潜入記者という素性をもつアルバイトの記録係の久部六郎(窪田正孝)、臨床検査技師の東海林夕子(市川実日子)、そして所長である神倉保夫(松重豊)の5名のバラバラな個性が不思議と噛み合う瞬間こそUDIラボの原動力であり、この奇妙なチームワークが物語の要ともなっている。

 最新話では、ゴシップ記事のネタ探しでUDIラボに潜入したが、解剖を通して、亡くなった人の人生に触れることによって、自分の身の振り方に迷いが生じはじめた六郎や、自身のパワハラによりUDIの人員が減り、所長の神倉の指示により、ミコトとタッグを組まざるを得なくなり、互いにぶつかり合うなかで、暴言や横暴さ変わらずとも、これまで封印していた素性ものぞかせる場面も見せはじめた中堂の心境の変化も、ストーリーを展開するなかで浮き彫りにしている。

 1話完結型が多い法医学ドラマのなかで、『アンナチュラル』はケースを解決したあともスッキリとしない不思議な余韻が伴う。それは、同時進行で中堂自身を取り巻く事件が展開され、職務を余儀なくされたミコトが中堂と関わることにより、この事件において踏み込まざるを得ない状況に陥っていくからだ。

 この余韻こそが、本作の一編一編を紡ぎ、『アンナチュラル』の魅力となっているかもしれない。

 今後、UDIラボの面々を巻き込みながらさまざまなケースが展開されるなかで、法医解剖医としてではなく、中堂系というひとりの男性が関わった殺人事件のケースの行方は明らかになるのか。そしてその思いに決着がつく瞬間が来るのだろうか。

<引用参考文献>
日本法医学会
法医学と検死の歴史
健康と医学の博物館
コトバンク 病理解剖
法医学に関する教育研究の実施状況調査 文部科学省医学教育課
コトバンク 司法解剖
コトバンク行政解剖
マイナビ進学 法医学医になるには

■内藤裕子
ライター。雑誌やWEBの編集、イベント企画、広報、クリエイターのマネージメント等を経て、現在は看護師。一方、写真関連コンテンツの企画や構成なども手がける。

■放送情報
金曜ドラマ『アンナチュラル』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜放送
出演:石原さとみ、井浦新、窪田正孝、市川実日子、池田鉄洋、竜星涼、小笠原海(超特急)、飯尾和樹(ずん)、北村有起哉、大倉孝二、薬師丸ひろ子(特別出演)、松重豊ほか
脚本:野木亜紀子
プロデューサー:新井順子(ドリマックス・テレビジョン)、植田博樹
演出:塚原あゆ子(ドリマックス・テレビジョン)
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/unnatural2018/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる