なぜミュージカル映画に挑んだのか? 『52Hzのラヴソング』ウェイ・ダーション監督インタビュー

『52Hzのラヴソング』監督インタビュー

 台湾映画の歴代興収1位を記録する『海角七号 君想う、国境の南』、台湾映画史上最高額の制作費が費やされた『セデック・バレ』などで知られる台湾の映画監督、ウェイ・ダーションが手がけたミュージカル映画『52Hzのラヴソング』が、12月16日に公開される。ウェイ・ダーションにとって6年ぶりの監督作となる本作は、バレンタインデーの台北を舞台に、世代も性別も超えた様々な愛のカタチを、全編ラヴソングで綴ったミュージカル映画だ。

 今回リアルサウンド映画部では、プロモーションのために来日したウェイ・ダーション監督にインタビューを行った。これまでの監督作からガラリと変わった作風に挑んだ理由や、台湾でのミュージカル映画の受け入れられ方、さらに映画祭のコンペ部門についての考え方などについて語ってもらった。

「“東洋人のミュージカル”は観る前から距離を置かれてしまう」

ーーこれまであなたが手がけてきた作品から一変、エンターテインメント色の強い内容だということにまず驚かされたのですが、どのような経緯でこの作品は生まれたのでしょうか?

ウェイ・ダーション:この作品を手がけることになった背景には、意外な展開がありました。私が製作・脚本を務めた『KANO~1931海の向こうの甲子園』のプロモーションで世界を回っていた中で、1週間ほどドイツに滞在したことがあったんです。その時の滞在先が日本でいう民宿のような場所だったのですが、時差ボケが激しくて夜中に目が覚めてしまうことが多々ありました。ちょうど春だったのですが、早めの朝食を取りながら庭を眺めていると、だんだんと夜が明けてきて、満開になった花が目に入ってきました。その美しい光景を目にした私はとても幸せな気分になり、非常に癒されたような気持ちになりました。そこで、以前から温めていたラヴストーリーを書こうという気になったんです。1週間の滞在中に早速脚本の一部を書き始めて、台湾に戻ってから2週間ほどで脚本が完成しました。脚本を書き終えた私は気分爽快になり、とにかくこの映画を撮ろうと考えたわけなのです。

ーーなぜミュージカルというジャンルに?

ウェイ・ダーション:正直に言って、私はラヴストーリーが得意ではありません。愛について脚本を書くと、言葉を並べるだけで照れてしまう幼稚な部分があるのです。そこで、歌をとおして愛を語ると、意外とうまくいくのではないかと考えました。あるいは、愛に対する考え方や捉え方、期待、感情、心から溢れ出る部分を音楽を通して表現すると、しっくりくるのではないかと。なので、愛に対する期待や失望、価値観などを音楽と歌詞ですべて表現することによって、登場人物に厚みを持たせることを意識しました。ミュージカルというジャンル自体には、2012年にニューヨークのブロードウェイで本場のミュージカルを観た時に、ぜひこれはやってみたいと意欲が湧いたのです。

ーーミュージカル映画からの影響も大きそうですね。

ダーション:私が一番最初に観たミュージカル映画は『屋根の上のバイオリン弾き』でした。この作品は本当に大好きで、ビデオが出たらすぐに購入し、DVDが出たらまたすぐに購入し、何度も繰り返し観ている作品です。近年の作品だと、『ムーラン・ルージュ』や『シカゴ』、『レ・ミゼラブル』も大好きです。

ーー台湾映画でミュージカルというのは非常に珍しい気がするのですが、台湾ではどのようにミュージカル映画が受け入れられているのでしょうか。

ウェイ・ダーション:台湾でミュージカル映画はあまり撮られていません。もちろんあることはありますが、どれもあまり成功はしませんでした。これは日本でも同じかもしれませんが、“東洋人でミュージカルをやる”ということ自体に距離があるのです。しかもその距離感は、作品を鑑賞する前に生じてしまう先入観。つまり、観る前から距離を置かれてしまうのです。実際に劇場で映画を観てくれた観客のうち、約9割の方々には満足してもらえたので、その点においては満足しているのですが、やはり先入観を持った人にどう興味を持ってもらうか、そこはやはり難しいと感じました。何かを仕掛けることはせずとも、この作品はそういった先入観を持った観客を説得することができると自信を持っていたんです。観てもらうことができれば私自身も否定的な意見に納得できるのですが、作品を観ずに、先入観だけで否定されてしまうのは私も残念でした。「これはあなたが撮る映画ではない」「さっさと台湾三部作に戻りなさい」という声もありましたが、私だってもっとリラックスした、甘い映画を撮りたい気持ちはあるのです(笑)。

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