高度化するネット社会の負の側面とは? エマ・ワトソン主演『ザ・サークル』が描く不安と恐怖

小野寺系の『ザ・サークル』評

 検索サイトで文字を入力するとき、位置情報を利用して目的地までの経路を割り出すとき、SNSで近況を報告したり、他人と交流するとき…。インターネットのサービスは様々な用途で利用され、それはいまやなくてはならない存在になっている。だが、かなり無頓着な性格でない限り、そこには絶えずユーザー側の「自分の個人情報が握られている」という不安がつきまとっている。

 ベストセラーとなった同名の小説を映画化した、本作『ザ・サークル』は、便利になったわれわれの社会が理想郷ではなく、むしろその逆の恐怖社会へ向かおうとしているのではないかという不安を、かなり現実の状況に即したかたちで具体的に描いていく映画だ。ここではそんな本作が表現した社会の姿と、われわれがどう対応していくべきなのかという提言について考えていきたい。

 IT産業のメッカであるサンフランシスコの開発競争を描いた人気ドラマ『シリコンバレー』でも描かれているように、先端的なサービスを企画、製作する若い開発者たちは、一発当てることを夢見て日々モニターと向かい合っている。では、運よく優れたシステムを造り出せたとして、その後はどうするのだろうか。画期的なSNS「フェイスブック」を立ち上げたマーク・ザッカーバーグのようにIT業界に君臨するのだろうか。

 会社やサービスを長年運営し続けることはリスクである。いつか大企業に潰されてしまう前に身売りして大金を手にし、残りの人生をリゾート地で過ごした方が利口なんじゃないかと、多くの開発者が思うのも道理である。 その結果、既存の大企業が多くのサービスを飲み込み、より巨大化し帝国のようになっていくことで、全てが一元化へ向かっていく状況が生まれる。

 本作で描かれる、世界一のシェアを誇るSNS「CIRCLE(サークル)」は、そのような実在の帝国的な企業を連想させるネーミングだ。エマ・ワトソンが演じる主人公「メイ」は、そんな憧れの超有名企業への就職を果たす。広大な敷地に巨大な建物が点在する、この一つの町のような会社では、社員たちが常に活発に交流し、週末にはパーティーやイベントが開かれ、超大物ミュージシャンが呼ばれることも珍しくない。さらに破格の給料に加え、家族までカバーしてくれる手厚い医療保険まである。そこは一見、この世の極楽浄土であるかのようだ。

 トム・ハンクス演じるカリスマ経営者「ベイリー」は、膨大な数の高性能小型カメラを利用し、そのライヴ映像をメンバーたちで共有する「シー・チェンジ」という新サービスを発表する。これによって「サークル」のメンバーは、いつでもどこでも世界各地の様子を知ることができるのだ。そのカメラを身に着ければ、その人物の視点を共有することもできる。これが大勢のユーザーに行き渡れば、自分の視覚を他の人が体験し、他人の視覚を自分が体験できる。このサービスは、防犯効果や政治家の活動の監視など、一般市民の「理解を得られやすい」かたちでスタートするところがリアルだ。

 ベイリーに促され、メイはそのシステムの最初の急進的ユーザーとして、「完全透明化」に挑むことになる。それは、自分自身や生活範囲に複数のカメラをセットし、トイレに入っている間などを除く、自分の生活のほぼすべてを公開するという、プライベートを捨てる狂気の行為である。どこへ行こうと、何をしようと、彼女の一挙手一投足は大勢の人間に注視されることになる。煩わしくもあるが、同時に一種の快感もある。「透明化人間」ということで注目されている彼女は、いまや有名人であり、大勢から常に「気にかけられる存在」になったのだ。メイを演じている実際のエマ・ワトソンも人気女優であり、社会問題への発言も多く、SNSで注目を浴びている存在だ。

 SNSを利用する我々は、エマ・ワトソンほどでなくとも、彼女と同じような体験をしているはずである。スマートフォンで今日のランチや飼い猫の可愛い仕草を撮影したり、日々の出来事や個人的な感情をつづることで、他者とつながったり反応をもらったりすることができる。趣味が多様化し個人主義が進んでいくなかで、自分を孤独から救うことができる。

 だが近頃、「SNS疲れ」という言葉が出てきたように、そのつながりを維持し、声を掛け合うことが面倒になってきたり、見栄を張るために、無理に生活水準を引き上げようとしたりすることが辛くなってきている人が続出しているようだ。素敵なパンを買ってアップするために遠出したり、交友関係の広さをアピールするためにパーティーに顔を出すという行為を継続するのは大変だ。それとは逆に、自虐的な内容を表に出して不自由な自分をアピールしているような人も、その鏡像関係にあるだろう。

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