『刑事ゆがみ』の面白さは“昭和”と“平成”のバランスにアリ? “全員ハマり役”の巧みな設定を読む
とんでもなく面白い刑事ドラマが始まった。木曜10時の『刑事ゆがみ』である。放送された2話だけでも杉咲花、大後寿々花、水野美紀、斎藤工といった演技巧者の豪華ゲスト陣が演じる、切なく愛すべき人々の心の「ゆがみ」が織り成す珠玉の物語は言うまでもないが、このドラマの最大の魅力は、やはり浅野忠信と神木隆之介演じるバディと、浅野演じる弓神の裏のバディ“ひずみ”を演じる山本美月、そして彼らを見守る稲森いずみの4人の絶妙なキャラクターにある。そして4人全員が、「こんな○○が見たかった!」と周囲に吹聴して回りたくなったぐらい、完全にハマり役である。
まず、斬新なのが、浅野忠信をめぐる陰陽2つのバディである。1話の冒頭は、神木隆之介の目に映る浅野忠信が、深い暗闇から這い上がるように表われ、前者が刑事、後者が容疑者として取調べの真似事をしている場面から始まる。それだけで、浅野忠信演じる主人公・弓神適当が一筋縄ではいかない、刑事ではあるが、犯人側であってもおかしくなさそうな明るさと暗さを両方併せ持つ人物であることがわかる。弓神にとって、明るい側のバディが神木隆之介演じる羽生虎夫であり、暗い側、羽生側は知る由もない、今のところ視聴者だけにしかその存在が明らかにされていない影のバディが、山本美月演じるハッカー・ひずみである。
いい加減でだらしなく、犯人と向き合う眼差しは一見ふざけているようで、鋭く、優しい。汚れた手でパソコンに触れようとする山本美月の手をたしなめながら拭く姿は、なんだか色っぽい。それが、浅野忠信演じる弓神適当だ。
対する神木隆之介演じる羽生虎夫は、正義感が強く真面目かつ、出世欲の強さゆえの腹黒い部分も見せる、弓神にいじられ続ける「25歳童貞くん」キャラ。1話で杉咲花演じる同級生“委員長”に淡い恋心を抱く姿や、2話で水野美紀演じる女教師と生徒の恋物語に、つい自分を置き換えて妄想してしまうところが可愛い。
この年の差バディは、若さゆえ、経験値の高さゆえの違いはもちろんだが、平成と昭和の刑事像という点から見ても面白い。違法行為は当たり前、隠し持った道具でピッキング、ちょっと目を離した隙に踊っていたりギターを演奏していたり、最後には始末書という弓神の姿は『あぶない刑事』、特に柴田恭兵演じる大下勇次を重ねずにはいられない。逆に平成生まれの刑事・羽生はスマートで合理的に、規則正しく物事を判断し、行動しようとする。といっても弓神の破天荒な行動に巻き込まれ、彼自身の熱さゆえ感情を乱したり戸惑ったりしてばかりであるが。
1話のゲストである杉咲花は、今風ではない「そ」の字を書き、駅のホームから車掌としていろんな人の人生をちょっとずつ垣間見ることを幸せと感じる、弓神が指摘するように「古風な女の子」である。その一方で、「ネットの掲示板にはたくさんの本心が詰まっていて、私に助けを求めている」と思ってしまう「現代っ子」の性質も持っていた。その姿に象徴的なように、このドラマにおける「昭和っぽさ」と「平成っぽさ」は、何かしら重要な意味を持っているのではないかと感じる。