テレ朝「ドラマ枠をシリーズ作で埋める」ことの是非 刑事&医療モノには海外販売の狙いも
今秋は民放各局の力作が目白押し。TBSは、池井戸潤の小説が原作の『陸王』、宮藤官九郎が脚本を手掛ける『監獄のお姫さま』。日本テレビは、綾瀬はるかが元工作員としてアクションに挑む『奥様は、取り扱い注意』、櫻井翔が校長となり学校の立て直しに取り組む『先に生まれただけの僕』。フジテレビは、政治を真っ向から扱う『民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?~』、教育現場にミステリーを絡めた『明日の約束』。いずれもキャストの豪華さだけでなく、プロデューサー、脚本家、演出家にエース級をそろえていることから、一年前の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)のような大ヒット狙いであることがわかる。
しかし、力の入った新作がそろう中、テレビ朝日だけはまったくの別路線。プライムタイムに放送されるすべての枠を『相棒』『科捜研の女』『ドクターX~外科医・大門未知子~』のシリーズ作で埋め尽くした。
『相棒』は16シリーズ目、『科捜研の女』は、17シリーズ目、『ドクターX』は5シリーズ目。しかも『相棒』と『科捜研の女』は、半年間の2クール放送である。固定ファンが多い反面、「もう飽きた」「新作を作るべき」など批判の声も少なくない。つまり、シリーズ作の連発は、賛否両論が飛び交いやすい戦略なのだ。
その理由は、これらのシリーズ作が「質が高い」「視聴者の熱が高い」というより、「高視聴率を獲得しやすい」タイプのコンテンツだから。「強烈なキャラクターや問題解決の爽快感は保証されている」が、「予想外の展開が少なく、同じ結末を迎える」というのがお決まりになっている。そのため、録画してじっくり見るのではなく、リアルタイム視聴したくなるタイプの作品=視聴率に直結しやすいのだ。
今年放送した8割がシリーズ作だった
テレビ朝日が今年放送したプライム帯のドラマは、今秋の3本だけでなく、『警視庁捜査一課9係』『警視庁・捜査一課長』『遺留捜査』『刑事7人』『緊急取調室』も含め、10本中8本がシリーズ作だった。また、リメイク作の『黒革の手帖』も、ある意味シリーズ作に近いと言える。
しかし、筆者自身、これらの作品について今さらどうこう書こうとは思わないし、シリーズ作に振り切るテレビ朝日の判断も間違っていないと感じる。民放各局が視聴率をベースにした経営スタイルを採用している以上、戦略としては「アリ」なのだ。
ただし、他局がテレビ朝日の戦略を模倣すると、ドラマが刑事と医療モノばかりになり、業界全体が衰退してしまうだろう。シリーズを重ねるほど、事件や病気の種類と、その解決策は類似し、「どこかで見た展開」に視聴者は飽きてドラマそのものから離れかねない。
幸いにして、テレビ朝日以外で今秋放送されるシリーズ作はTBSの『コウノドリ』のみで、今後シリーズ化の可能性があるのもフジテレビの『刑事ゆがみ』くらいではないか。前述したように、各局が力の入った新作をラインナップしたのは、質の高さや視聴者の熱と高視聴率の両方を獲得した『逃げるは恥だが役に立つ』のようなホームラン狙いであるとともに、ドラマの多様化を重視しているからだろう。
テレビ朝日が「先に必勝パターンを見つけた戦略勝ち」である一方、他局は「われわれは意地でも新作で真っ向勝負」という図式になっている。今のところ、結果的にバランスが取れているし、テレビ朝日の戦略に模倣するテレビ局がない限り、それは保たれるのではないか。