『HiGH&LOW THE MOVIE 2』評論家座談会【前編】 「日本発クリエイティブの底力を見た!」

『HiGH&LOW』評論家座談会【前編】

加藤「琥珀さんを演じられるのは、AKIRAさんしかいない」

『HiGH&LOW THE MOVIE』

西森:個人的には、次の『HiGH&LOW THE MOVIE 3 / FINAL MISSION』で終わりじゃなくて、毎年の夏から秋にかけての風物詩みたいな感じで、延々と続けて欲しいと思うんですよね。

成馬:それこそ、MUGENの思想に近いというか、仲間たちと永遠に戯れて続けたいみたいな願望ですよね。多分、そういう願望が大人の世界と衝突してしまうというのが『HiGH & LOW』の根底にある世界観なんだと思います。『HiGH & LOW THE MOVIE』で、琥珀さんが抱えていた葛藤って、ずっと好きなことをやって戯れていたいって気持ちをこじらせたもので、実はオタク的な葛藤なんですよね。不良漫画の『クローズ』もそういう構造を持っていて、基本的に殴り合ってばかりいるけれど、結局、みんな卒業していなくなっていってしまう。つまり、SWORD地区というのはモラトリアム空間なんですよ。だから人も死ななかった。

西森:モラトリアムをもっとも体現しているのは、鬼邪高校かもしれませんね。いつまで経っても卒業できなくて、良い年齢になって学生服着てケンカばかりしてる。

成馬:SWORD地区は箱庭の世界にすぎなくて、実は大人が牛耳っているということを示す存在が九龍グループですね。この構図は、戦後カルチャーの比喩としてよくできている。どこまで狙っているのかはわかりませんが、実は日本映画が抱える問題とか、芸能界のしがらみとかともリンクしているように見えます。LDH所属のアーティストは、アクションにしてもダンスにしても歌にしてもハイレベルで、本当は実力だけで勝負したいんだけれど、芸能界的なしがらみとか、映画界や音楽シーンの現状とか、そういう九龍的な大人の事情ともうまく渡り合おうとしているのではないかと。表向きにもちゃんとやっていこうという意思を表しているのが山王連合会だとしたら、アンダーグラウンドで思う存分やりたいという意思を表しているのがMIGHTY WARRIORSで、本音は後者にある。

加藤:MIGHTY WARRIORSは全勢力の中で、実は一番まっとうなグループですよね。音楽でコツコツお金を稼いで、自分たちで運営するクラブを造って、ライブをやって、さらにお客さんを集めて、ちょっとずつ勢力を拡大している。ケンカ以外はなにも間違ったことをしていない、極めてまっとうな音楽レーベルですよ。

成馬:あそこだけ女性も構成員として戦っているのも、フェアな感じで好感を持てますよね。ほかのグループは、ジェンダー的に問題を抱えている感じがする。White RascalsとDOUBTが戦っていて、White Rascalsには女たちを守るという名目があるわけだけれど、肝心の“傷ついた女性像”というのが全然見えてこない。いったい何をどう守っているのかが不明瞭で、いまいち腑に落ちないんですよ。あと、苺美瑠狂の出番が極端に少なくなったのも、気になるところです。西森さんから見て、『HiGH&LOW』に女性キャラクターは必要ないですか? それとも、苺美瑠狂にも戦闘に加わってほしいですか?

西森:うーん、どうでしょう。苺美瑠狂の今のままの感じで戦うのは、ちょっと大変そうじゃないですか? たぶん戦闘能力も高くないし、数秒でボコボコにされるのが目に見えているので。私が苺美瑠狂だったら、絶対怖いし行きたくないなって思っちゃいます。これはもし男性キャラで非力でケンカする意思がない人でも同じですね。ただ、藤井萩花さん演じるナオミが、ちゃんと訓練していてすごく強いのであれば、戦って欲しいですけれどね。今後、新たに女性キャラが戦うには、ちゃんと「ケンカする意味」もしくは、「大人と戦う意味」を見つけるドラマを描いて、それからのほうがいいとは思います。そういう「気持ち」が描かれてからであれば戦うものは見てみたいですね。

加藤:MIGHTY WARRIORSのセイラって、いまのところライバルになる相手がいないんですよね。もし、ナオミが戦闘に参加したら、お互いにもっとキャラも立って良いんですけれどね。

成馬:そういえば九龍にもひとり、女性がいたような。

加藤:幹部クラスに飯島直子がいましたね。でも、『HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY』では、キョンキョンやYOUとともにいなくなってしまいました。彼女たちはどこに消えてしまったんでしょう。正直、最初に『HiGH&LOW THE MOVIE』を観たとき、小泉今日子とYOUのくだりは別にいらないかなって思ったんですよね。でも、いざいなくなってしまうと、それはそれで物足りない。何でもないようなことが、幸せだったと思う的な。

成馬:物語としては、『HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY』になってすごく整理されたんですよね。琥珀さんのよくわからない悩みとか、女性に対する微妙な距離感とかがきれいになくなっていて、とても観やすくはなりました。でも、それゆえに『HiGH&LOW』特有の、いい意味での面倒くささや、突っ込みどころが減ってしまったのは否めない。ネットでの突っ込みを誘発する設定の甘さが魅力にもなっていたのが、『HiGH&LOW』の特異な部分だったんだなと、今回改めて思いました。

西森:琥珀さんの存在感って、いい意味で異様でしたもんね。『HiGH&LOW THE LIVE』のときも、ひとりすごい存在感で、おさまりきらねーなって。

加藤:あの世界観においても、AKIRAさん演じる琥珀さんは良い意味で凄まじく浮いていました。今回は中村蒼さん演じる蘭丸がラスボスとして出てきて、普通のヤンキーものなら全然成立するくらいクレイジーなんだけれど、その前に僕らは琥珀さんのヤバさを知っているし、小林直己さん演じる九鬼源治のターミネーターぶりを観ているから、どうしても霞んでしまうんですよ。ただひとつ言えるのは、AKIRAさんの演技って、これまで叩かれることも多かったけれど、『HiGH&LOW』で風向きが変わりましたよね。琥珀さんを演じられるのは、AKIRAさんしかいないってことを知らしめたと思います。みんな琥珀さんが大好きですし。

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