人はなぜ家族になるのかーー『幼な子われらに生まれ』が描く、傷だらけの再生

『幼な子われらに生まれ』が描く傷だらけの再生

 それでも家族と向き合い続けようとする信の姿もまた、単に苦難に耐える可哀想なお父さんというわけではない。寺島しのぶ演じる彼の前妻に「理由は聞くくせに気持ちは聞かないの、あなたって」と言われる場面があるが、彼は頑固でどこか冷徹で、揺るがないと言えば聞こえがいいが、どこまでも変わらない男なのである。終盤にいくにつれ、その本性が抉り出されていく様は、浅野忠信の熱演含め、必見である。

 

 一方、妻・奈苗の元夫・宮藤官九郎演じる沢田は、家庭というホラーから逃げた男だ。妻子に暴力をふるい、競艇にはまり、ありとあらゆることをして奈苗と、奈苗がもたらす「平凡な家庭」というホラーから逃げ出した。それでも彼がどうにも愛おしく感じてしまうのは、わずかに滲みでる不器用な愛と、信とは180度違った形の優しさと誠実さなのかもしれない。テレビドラマ『カルテット』でも松たか子との平凡な生活に幻滅して失踪した夫を演じた宮藤官九郎が好演している。

 明るい光のもと、まだ小さかった長女・薫が乗ったブランコが揺れる。まだ父親ではない、「ママの一番仲良しのおじさん」だったころの信が、そのブランコを優しく揺らしている。その場面こそがこの映画の中の、ノイズのない純粋な希望だ。人はなぜ家族になるのだろう。なぜ、尋常じゃない苦労と我慢を受け入れてまで他人同士が一緒に暮らすのだろう。やっかいな彼らの、傷だらけの再生は、家族の多様性が増す今、観客の心にズシリと突き刺さってくる。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿

■公開情報
『幼な子われらに生まれ』
テアトル新宿・シネスイッチ銀座ほか全国順次公開中
出演:浅野忠信、田中麗奈、南沙良、鎌田らい樹、新井美羽、水澤紳吾、池田成志、宮藤官九郎、寺島しのぶ 
原作:重松清「幼な子われらに生まれ」(幻冬舎文庫)
脚本:荒井晴彦
監督:三島有紀子
配給:ファントム・フィルム(2016年/日本/ビスタサイズ/5.1ch) 
(c)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会
公式サイト:osanago-movie.com

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