『ジョジョの奇妙な冒険』の実写化は成功したのか? 評価のポイントを検証

『ジョジョ』の実写化は成功したのか?

 原作漫画におけるスタンドバトルの描写については、私はある不満を覚えている。お互いの能力を発揮しつつ、いかに相手の裏をかいて勝利するか、状況が二転三転する戦いをサスペンスフルに楽しませるというのが趣向になっているが、そのバトルの展開に、いまいち納得できないケースが多いのである。加えて、東方仗助の操るスタンド“クレイジー・ダイヤモンド”が持つ「ものを治す(直す)」能力があまりにも応用が利きすぎるように思える。本作にも登場する「空間をけずり取る能力」によって、ものを手前に引き寄せる描写についても、見た目ではどのくらいけずり取ったのかが理解しづらく、引き寄せる距離が毎回都合よく変化するように感じられる。そうなってくると、「能力」を恣意的にこじつければ、どういう攻撃だって可能になってしまうような印象を与えられるのだ。このご都合的恣意性というのは、『週刊少年ジャンプ』に連載している、同じような能力系バトル漫画『HUNTER×HUNTER』の緻密な設定とロジックの積み上げと比べると際立つように思う。「それが『ジョジョ』なのだ」と言ってしまえばそれまでだが、これは私にはカタルシスを生じにくくするような、明らかな弱点であるように思える。スタンドバトルにおける論理性は、それが読者の「身体性」の実感から離れたものだからこそ、より重要になってくるはずである。

 原作『第四部』のなかで、私がとくに面白いと思ったバトルは、少年と人気漫画家が精神エネルギーを賭けて戦う「ジャンケン勝負」だったり、東方仗助と、変身能力を持った仲間が、金のために「イカサマ勝負」を仕掛けるが、結局は指を賭けることになる、ロアルド・ダール作品のような展開など、あくまで、読者にあらかじめ提示されている範囲のなかで勝負がつくものに限られる。その条件において裏をかいてこそ、カタルシスが生まれるのではないだろうか。

 実写映画版を内容的に成功させ、意義のあるものにするためには、原作に弱点があるならば、それを克服する必要があるはずだ。その意味では、少年漫画特有の「単調なバトルの繰り返し」によって輪郭がぼけてしまった面があると感じる、カーレース漫画『頭文字D』が、原作のファンであるという、香港のアンドリュー・ラウ監督らと、『インファナル・アフェア』シリーズを中心とするスタッフによって大胆に翻案され、一つの映画作品として、より完成度の高い見事な内容に生まれ変わらせた実例もある。それに対して、実写版『ジョジョ』は弱点となる部分すら、そのままトレースしてしまっているように感じられるのだ。

 それでは原作漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのバトルにおける最大の魅力とは何なのだろうか。それは、戦いの緊迫感をサスペンスやホラー表現と結び付け、さらに「ゴゴゴ…」「ドドド…」など重低音を意味する擬音とともに、緊張が持続する演出の巧みさである。そこには、仰角からだったり、真上からだったり、奇抜な構図によって、静的な場面もドラマチックに表現できる技術が駆使されている。これは、デヴィッド・フィンチャー監督の映画作品の演出にも近く、映像を漫画作品として効果的に再現する手法であるように感じられる。

 そのような面を理解したうえで、これを実写化しようとするならば、その「映画的」特性をさらに映画作品として強調して、奇抜な構図や、サスペンス演出を連発させ、実験的な部分まで踏み込んでこそ、『ジョジョ』の正しい実写化作品になるのではないだろうか。そういった演出上の意味においては、明快な映像を撮ることの多い三池監督の作風とは、ミスマッチな部分もあったように感じられる。

 本作は「第一章」と銘打たれているが、次作が作られることがあるのなら、原作ファンが、原作との差異を確認し「頑張っている」と評価するような内容を超えて、映画ならではの意匠、そして原作同様のケレンをたっぷりと詰め込む必要があると思える。内容の面において、漫画原作の実写映画が何よりも目指すべきは、描写を考え抜くことで、いつまでも記憶に残る優れた映画を作ることである。それは、漫画原作であっても、オリジナル作品であっても。多くの映画作品において共通する目的であるはずだ。

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』
全国公開中
原作:荒木飛呂彦(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:三池崇史
出演:山崎賢人、神木隆之介、小松菜奈、岡田将生、新田真剣佑、観月ありさ、國村隼、山田孝之、伊勢谷友介
配給:東宝/ワーナー・ブラザース映画
(c)2017 映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」製作委員会(c)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
公式サイト:jojo-movie.jp

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