松江哲明の“いま語りたい”一本 第20回
松江哲明の『パトリオット・デイ』評:実際のテロ事件をモデルにしながら、勧善懲悪に陥らない映画
社会派映画としての一面を持ちながら、ピーター・バーグ監督には独特のユーモアがある。現実のくだらなさを隠さないんです(笑)。『バトルシップ』では、エイリアンをぶん殴ると、スローモーションで歯が飛んでいくという本筋からずれた描写がいきなり入っていましたが、本作でも、一番スリリングな銃撃戦の最中に、近隣住民が「これであいつらをやっつけろ!」と小さいハンマーを渡そうとする(笑)。ただ、現実の方がバカバカしいということは往々にしてあることです。テロリストたちの動機もそうですが、客観的にはバカバカしく映ってしまうような“切実さ”が、ピーター・バーグの映画には内包されていると感じました。だからこそ世界はたくましくもあり、くだらない。それを隠さないピーター・バーグの映画は、僕にはとても魅力的です。
(取材・構成=石井達也)
■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』、2017年には『山田孝之のカンヌ映画祭』の監督を山下敦弘とともに務める。山下敦弘と共同監督を務めた『映画 山田孝之3D』が公開中。
■公開情報
『パトリオット・デイ』
公開中
出演:マーク・ウォールバーグ、ケヴィン・ベーコン、ジョン・グッドマン、J・K・シモンズ、ミシェル・モナハン
監督・脚本:ピーター・バーグ
脚本:マット・クック、ジョシュア・ゼトゥマー
製作:スコット・ステューバー ほか
2016年/アメリカ/カラー/シネスコ/5.1ch/133分
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公式サイト:www.patriotsday.jp