小栗旬「今、光が見えたから」が示す希望 『CRISIS』“ダイヤモンド”が意味するもの

小栗旬「今、光が見えたから」が示す希望の光

 「小石をダイヤモンドに変えるんだよ」。5月16日に放送された『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(カンテレ・フジテレビ系)の第6話。11年前に地下鉄車両内で無差別爆弾テロを起こし、容疑者として指名手配されていた里見(山口馬木也)が、都内のコンビニに突如姿を現したことから物語は始まる。公安機動捜査隊特捜班が、里見を見つけ出すために捜査を重ねていくと、実は里見が、カルト教団“真実の光教”に長期の極秘潜入捜査を命じられた公安捜査官の鍋島だったことが判明する。どんな人物にも完璧に成りきることができる優秀な捜査官だった鍋島(里見)が、なぜテロの実行犯になってしまったのか。その理由がまた、悲しすぎる結末へと展開していくのだった。

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 長期に渡り潜入捜査する場合、捜査官の安全を確保するためという名目で、警察官としての経歴が一時的に抹消され、任務が終わるまでその経歴が復活することは一切ない。鍋島もまた同様に、警察官としての経歴を抹消された。さらに、名前すらも奪われてしまうため“里見修一”として生きることを強いられる。「つまり、抹消に関わった人間がかん口令を敷けば、全ての事実が閉ざされてしまう」(田丸/西島秀俊)のだ。

 結局、公安機動捜査隊特捜班の阻止により、今回の里見の計画、警視総監の乾(嶋田久作)を殺すことは未遂に終わる。捕まったとき「なぜ、テロの実行犯になったのか?」と公安機動捜査隊特捜班に問われ、里見は「俺は仲間に裏切られ、見捨てられたんだ。俺に残された道はひとつしかなかった」と口にした。

 11年前、潜入捜査に入っていた里見は、決行日の5日前に教祖からテロの任務を命じられ、すぐに公安の連絡係に報告していた。1日か2日で教団にガサが入り任務が終わると思っていた里見。しかし、決行日の3日前に教祖の命令で狭い部屋に監禁されてしまう。里見は、自分の心臓の音が迫ってくるような部屋で、仲間が助けに来てくれるのをひたすら待ち続けていた。だが、結局誰も助けには来ず、何も起こらないまま決行日の朝を迎えたのだった。里見は問う「その時の俺の気持ちがわかるか?」、と。

 今もなお、自身の報告が無視された理由がわからないという里見。いくらでも憶測はできる。だが、本当の理由、もとい真実はわからないのだ。里見は諦めた表情を浮かべ「まあ、いい……理由は何だっていい。何にせよ、俺は信じるものを失い、そっちの世界に戻る理由をなくしてしまったんだ」とテロを実行した理由を淡々と述べる。両親も他界し、兄弟や親しい親戚もいない、さらには信じていた仲間にまで裏切られた里見にとってはもう、“本当の人生に帰りたいと思える大切な何か”がないのだ。

 そんな里見に対して「お前の言うことが正しいと証明するものは何も存在しない」と食らいつく稲見(小栗旬)。そう、証明するものは何も存在しないのだ。あのテロは予測不能で偶発的に起きたという結論になっている今、公安の連絡係に報告をしたことも、潜入捜査に入っていたことも、もとい“警察官の鍋島豊”であったことすら証明するものはもう、何もない。あっさり全てを奪われ、何もない世界で生きながら死んでいる里見は「それがお前らのいる世界だよ」と言い捨て、「あとは、お前が同じ目に遭ったときに本当の答えがわかるだろう」「まあ、いい……すぐにわかるさ。すぐに……」と虚ろげな目で言葉を発した。

 ふと、中盤で乾が言っていた「ここまで綺麗にせんていするのは大変だったよ。切って、縛って、僕の思うような形に仕上げたんだ」という言葉を思い出す。“せんてい”とは、樹木の生育や結実を調整したり、樹形を整えたりするため、枝の一部を切り取ることだ。そう、鍋島(里見)は枝の一部にすぎず、乾が思い描く未来を叶えるためにただ切り落とされたのだった。

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