映画館はニュースをエンタメにできるか? 立川シネマシティ音響リニューアル裏話

映画館はニュースをエンタメ化できるか?

 真逆印象という“第一の矢”のデザイン思想をここでも受け継いで、この企画を「祝・サウンドシステムリニューアル 春の【極爆】祭」と名付けました。このことで悪い冗談感をアップできます。黒バック、殴り書き、などの定石を外し、青空に桜のイラストを配し、そこに不穏なポスターばかりが並んでいる、というビジュアルを作りました。

春の【極爆】祭 特設ページ
https://ccnews.cinemacity.co.jp/goku-baku_matsuri_spring2017/

 これで、女性やカルチャー意識が高めの方向けの“第一の矢”、サブカル系、アクション・SF系エンタメ映画好き向けの“第二の矢”がそろいました。しかしこれらがカバーできていない、シネマシティにとって非常に大きく重要なお客様の層があります。それが『ガールズ&パンツァー劇場版』や『劇場版艦これ』『劇場版ソードアート・オンライン オーディナル・スケール』などに熱心に足を運んでくださったアニメファンのお客様です。

 この層に一番効果的で、100%成功が約束されているのは『ガルパン』を祝リニューアルで上映することです。しかし繰り返しになりますが、スケジュールは空きません。それに予定調和的でインパクトは強くありません。ただこうして音響をパワーアップし続けられるのはアニメファンの皆様の貢献が絶大です。このお客様に音響増強をアピールしつつ、そのことを楽しんでいただく方法を思いつかなければ、今告知プロジェクトは十全とは言えません。

 なにか“思いもよらないこと”は思いつけないか。世の中には“告知方法”ってどんなものがあるのだろうと調べていたところ、そうだ、この手があった、と気づきました。そう“ゆるキャラ”です。ですが、動物的なゆるキャラを作ってもしょうがないので、当然、劇場の美少女化です。これは“第三の矢”になり得るぞ!

 【極爆】は2つの大きなスクリーンで行っており、今回のリニューアルでは、メインの最大劇場で使用していたスピーカーをもうひとつの劇場に移設する、というものでした。新規購入ではないので、どうしても訴求力は弱い。しかしこれを逆手に取って、反転させる“ストーリー”を思いつきました。擬人化キャラを作るだけでは弱いところを、“ストーリー”を付与してマンガ化してもらうことで、キャラに命が吹き込まれ、それを媒介に劇場自体に愛着を持っていただく、ということが可能になるのではないか? 速攻で企画書を書き、これ実現できたらスゴいことになるから、たまにはちょっと宣伝にお金出してよ、と会社を説得、すぐに漫画家・イラストレータの才口オトウフ先生に連絡をしました。

 この才口オトウフ先生、シネマシティの『ガルパン』【極爆】に何度も通ってくださっており、以前Twitterでガルパンキャラたちがシネマシティの劇場に座っているファンイラストをアップして大きな話題になっていたのです。それを思い出して、この人しかいないと。幸運なことにご快諾いただき、時間がなさ過ぎたので締切は1週間半後というムリなスケジュールでしたが、なんとか間に合わせていただき、これで矢が三本そろいました。かなりギリギリでしたが“強い告知”に仕上げることができました。

「お下がりはイヤ!」マンガで音響リニューアルを紹介したページ
https://ccnews.cinemacity.co.jp/b_studio_ver_up_201703/

 これら3つを同時に発表した夜、“シネマシティ”はTwitterのトレンドワードで少なくとも13位まで上りつめのました。HPのアクセス数も普段の数倍に。そしてこの後、それまでどうしてもaスタジオの格下感のあったbスタジオは、“bスタちゃん”として一躍人気スクリーンに躍り出ました。ロリキュートなキャラデザに反し、音圧は凶暴であるギャップも人気のひみつです(笑)。

 映画館がスピーカーを入れ替えるというだけの“情報”を、しかしそのまま味気なく出すのではなく、驚かせたり笑わせたり、トリビア欲を満たす要素をつけることで、ひとつの“エンタテイメント”にまで高めていく。映画館がエンタテイメントする時間を上映している間だけから拡大していく。エンタメを売る商売にとってはそれがとても大切だとこの連載でも偉そうに何度も書いていますが、口だけでなく、今回もなんとか実際に成果を出すことができて、胸をなで下ろしています。

 さて、次はなにをして映画ファン、音楽ファンを驚かそうかな。
 You ain't heard nothin' yet !(お楽しみはこれからだ)

(文=遠山武志)

■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。

■公開情報
『イップ・マン 継承』
4月22日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
監督:ウィルソン・イップ
アクション監督:ユエン・ウーピン
音楽:川井憲次
出演:ドニー・イェン、マックス・チャン、リン・ホン、パトリック・タム
特別出演:マイク・タイソン
原題:葉問3/2015年/中国・香港/広東語・英語/105分/カラー/シネスコ
配給:ギャガ・プラス
(c)2015 Pegasus Motion Pictures (Hong Kong) Ltd. All Rights Reserved.
公式サイト:http://gaga.ne.jp/ipman3/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる