松坂桃李と菅田将暉の“等身大の姿”に共感! 歯科医のロッカー・サエキけんぞうが『キセキ 』を観る

サエキけんぞうの『キセキ』評

 サエキの80年代、歯医者をやりながらロックをやることは、巨大なシステムとの戦いでもあった。システムが“父性”の代わりに立ちはだかる壁だった。大学や医局の連中とギリギリの連携をとって何とか歯科医となり、診療に参加した。(角川文庫「歯科医のロック」参照=絶版ですが)。そんな環境で歌いたかったことはニューウェイヴ。崩壊の危機を内包した社会や人間関係について、テンションいっぱいの作品を作り上げてきた。トガっていなければロックではなかった。その戦いは僕の人生そのものだし、誇りに思っている。

 一方、JINがふと発見したHIDEの優しさあふれるポップスの才能は、80年代バンドブームを経てJ-POPが90年代、日本の風土に定着した後、さらに2000年代の地方インディーズの時代に展開した。そこで生まれたのは、かつての演歌とは全く違ったやり方で、各地の人の気持ちを癒やす運命を持った純日本産のポップスだ。

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 歯科医としての面だしをせずに、曲だけで成功する、という離れ業が可能になったのは、成熟したプロダクションシステムから生まれた素晴らしいキセキだ。JINもHIDEも本当にベストを尽くしている。

 JINとHIDE、UNDER HORSE RECORDSの東北からの挑戦には、このように非常に意義深い日本のロックへのトライが隠されている。実はそれがこの映画を重層的に強い構造にしているのだ。

 お父さんが本当にどれくらい怖かったのかは、会うことがあったら聞かせてくれ!

■サエキけんぞう
ミュージシャン・作詞家・プロデューサー。1958年7月28日、千葉県出身。千葉県市川市在住。1985年徳島大学歯学部卒。大学在学中に『ハルメンズの近代体操』(1980年)でミュージシャンとしてデビュー。1983年「パール兄弟」を結成し、『未来はパール』で再デビュー。沢田研二、小泉今日子、モーニング娘。など、多数のアーティストに提供しているほか、アニメ作品のテーマ曲も多く手がける。大衆音楽(ロック・ポップス)を中心とした現代カルチャー全般、特に映画、マンガ、ファッション、クラブ・カルチャーなどに詳しく、新聞、雑誌などのメディアを中心に執筆も手がける。

■公開情報
『キセキ ーあの日のソビトー』
全国順次公開中
出演:松坂桃李、菅田将暉、忽那汐里、平祐奈、横浜流星、成田凌、杉野遥亮、早織、奥野瑛太、野間口徹、麻生祐未、小林薫
監督:兼重淳
脚本:斉藤ひろし
配給:東映
製作プロダクション:ジョーカーフィルムズ 
(c)2017「キセキ ーあの日のソビトー」製作委員会
公式サイト:kiseki-movie.com

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