『沈黙ーサイレンスー』塚本晋也インタビュー「幸運にも『野火』と基本的なテーマが同じだった」

『沈黙ーサイレンスー』塚本晋也インタビュー

「“監督の奴隷になる”ことしか考えていない」

20170117-Silence-sub6.jpg

 

ーー11月に行われた記者会見では、「スコセッシ監督からは演技指導はあまり受けなかったけど、とにかく何度も何度もテイクを重ねる」という発言をされていましたね。

塚本:僕はほとんどスコセッシ監督から演技指導を受けませんでしたが、アンドリューは悩みながら監督とよく話していました。モキチの演出も、物語を牽引するアンドリューに何かを言うことによって、僕からまた何かを引き出そうとしていたんじゃないかなと。

ーーハリウッドを代表する若手実力派俳優のアンドリュー・ガーフィールドとの共演はいかがでしたか?

塚本:アダム(・ドライバー)もそうですが、とても自然でニュートラル。僕もそういう俳優が好きなので、自分が映画を作るときもそこを重視しています。なので、この2人と演技をしているときは、自分自身も本当に自然な演技をすることができました。監督目線で言えば、アダムは僕の好きなタイプの俳優だったので、共演するのも非常に嬉しかったのですが、モキチ役でいうと、ロドリゴ役のアンドリューに集中しないと崩れてしまうので、アダム好きは置いておいて(笑)、アンドリューとの関係性に集中しましたね。カメラに映っていないところでも、常にアンドリューに気を向けるようにきっちりと関係性を築き上げていきました。

ーー撮影以外のところでもコミュニケーションを取りましたか?

塚本:お互いかしこまらないように、無邪気に柔らかく打ち解け合うような雰囲気になるように心がけていました。モキチがロドリゴから木彫りの十字架を受け取るシーンがあるんですが、そのシーンを撮影する際に、小道具さんではなくてアンドリューが直接その十字架を僕に手渡してくれたんです。そのときは「ははー!かしこまりました!」という感じで受け取って、なるべくいい形で役に繋がるようにしていました。カメラが回っているときはとにかくどの瞬間も全霊を注いだのですが、特に全霊を注いだのは、自分の顔が映っているときよりも、逆にアンドリューの顔が映っているときなんです。アンドリューがいい芝居をしやすいように、自分の顔が映っているときの3倍ぐらいの力を込めてやりました。

20170117-Silence-sub1.jpeg

 

ーーメインビジュアルでもロドリゴとモキチが額を合わせているシーンが使用されていましたね。

塚本:あのシーンは本当に大事で。実はあのシーンの撮影がいきなり2日目にきてしまったんです。なので、「これは大変だ」ということでさらに気合いを入れて撮影に挑みました。アンドリューもあのシーンには相当力を入れて現場に来たので、それに見合うようにモキチを演じるために、僕も思いっきり力を注ぎました。ほかにも大事なシーンはたくさんありますが、あのシーンですべてが決まると思っていましたね。

ーー今回の『沈黙ーサイレンスー』は、塚本さんの2015年の監督作『野火』と通じるものがあると感じました。

塚本:僕もそれは強く感じました。伝えるべきことが共通していようがしていまいが、スコセッシ監督の映画だったらどんな作品でも喜んで参加するつもりでいましたが、幸運にも、ある権力の暴力によって自分にとって大事なものが曲げさせられることへの葛藤という、基本的なテーマが同じだった。『沈黙ーサイレンスー』は大きく捉えると宗教の話ですが、実は宗教を通してもっと大きなことを描いている作品で、そのような脅かしてくる力に対しての警告のような側面もあります。『野火』もそうですが、たまにはこのような重い映画を観て、静かに沈思する時間は必要だと思うので、ぜひご覧になっていろいろと考えていただきたいですね。自分にとって大事な監督作である『野火』と、大事な出演作である『沈黙ーサイレンスー』が同時期に生み出されていくのは、本当に大事な瞬間でした。

20170117-Silence-sub3.jpeg

 

ーー昨年は『シン・ゴジラ』や『SCOOP!』などの出演作が公開され、役者としても大活躍されていますが、演技をする上で何か心がけていることはありますか?

塚本:“監督の奴隷になる”ことしか考えていないです。ある一定の自分のやり方を持っていくのではなく、岩清水のようなピュアな気持ちで現場に行って、監督が自分のやりたいことをできるように、出っ張りも引っ込みもしない“部品”になりに行くということで。

ーーなるべく監督の言うことを受け止めて。

塚本:そうですね。なので監督に何かハッキリとやりたいことがあると嬉しいですね。例えば、テレビドラマなどで監督さんの姿があまり見えないようなときは不安に苛まれてしまうんです。自分なんかが好きにやったところで、ろくなことにはならないと思っているので(笑)。だから俳優が恐くて、監督が萎縮してしまうのが1番よくない状況じゃないですかね。「こうしたいからこうしてくれ」と監督に言われて、それに対して腕によりをかけて応えるのが演技の醍醐味だと思っています。だからこれをきっかけに、役者として羽ばたきたいみたいなこともないんです。今回はスコセッシ監督だから行ったわけで、いい場があるときに、ひとつひとつその場を大事にするだけですので。いまは何かまた声がかかることは期待せずに、自分の次の映画を地道に考えているところです。でも万が一またそういうお話があって、その作品に命からがらできるような遊び道具があれば、もちろん喜んで行かせていただくと思います。

(取材・文=宮川翔)

■公開情報
『沈黙-サイレンス-』
1月21日(土)全国ロードショー
原作:遠藤周作『沈黙』(新潮文庫刊)
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:ジェイ・コックス、マーティン・スコセッシ
撮影:ロドリゴ・プリエト
美術:ダンテ・フェレッティ
編集:セルマ・スクーンメイカー
出演:アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライバー、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ
配給:KADOKAWA
(c)2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://chinmoku.jp

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる