『君の名は。』エグゼクティブプロデューサーが語る、大ヒットの要因と東宝好調の秘訣

『君の名は。』製作者が語る、大ヒットの裏側

「『シン・ゴジラ』のプロデューサーとは昔一緒にポップコーンを売っていた」

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ーー確かに劇場は幅広い客層の方々で盛り上がっていた印象です。内容面での成功要因についてはどう考えていますか?

古澤:やはり、途中で驚きをもってもらいながら観てもらうことができるストーリーでしょうね。展開が予想できてしまうと、本当に時間が長く感じてしまうのですが、観客の予想を先回りしたような展開をしつつ、緩めるところは緩める。その辺りのストーリーテリングがとてもよくできていたこと、そして音楽が非常に優れていたことですね。RADWIMPSによる4曲の主題歌と劇伴のクオリティがすごく高かったですし、作品ともマッチしていた。10代の若い高校生を主人公にしたアニメのニーズも高かったので、そこにもドンピシャでハマったのが大きかったのかなと。あとは『君の名は。』という作品のタイトルもよかったと思います。

ーーというと?

古澤:先ほども少し触れましたが、実はタイトルが『君の名は。』になるまで、相当時間がかかったんです。映画って、最後の10分で完璧に感動することができたら、「この映画を観て良かったな」って思ってもらえる。だから、いくら前半に見どころがあっても、最後のシーンがイマイチだったら、その感想を引きずったまま劇場を出ることになってしまう。この作品は、タイトルが本編で何回も使われていて、それがすべて意味を持っている。最後にタイトルが出たときにRADWIMPSの歌と合わさる心地よさも、お客さんに響いたのかなって。頭で出てくるタイトルもちゃんと意味を持っていて、そのすべてが機能しているんです。

ーー実際の興行成績をどう受け止めていますか?

古澤:結果論なので、偉そうなことは何ひとつ言えませんが、そういう可能性があることが世の中に見てもらえたのは大きいですね。ヒットしてから1か月ちょっと経っていますが、最近プロデューサーや監督、クリエイターの方々とお話しすると、「次は自分たちがやってやる!」っておっしゃる方がすごく多いんです。僕らも100億という数字はもうなかなか出るものではないと思っていました。スタジオジブリの制作部門休止以降、国産のアニメでそこに届く作品はあるのかと。あれだけのブームの『妖怪ウォッチ』でさえ100億は超えませんでしたし、オリジナルで作ったものがなかなかヒットに繋がらない現状もありましたから。なので、いろいろな歯車が合うと、こういうヒットが生まれることもある、ある種、夢を持って作ってもいいんだと示せたことは本当によかったなと思います。

ーー『君の名は。』の興行は年明けまで行われるとか。

古澤:そうですね、そこを目指してやっています。夏休み映画の上映が正月まで続くって、過去にもなかなか例がないことなので。ここまできたら、僕らとしても次の大台になんとか届かせたいなと。

ーー『君の名は。』も先ほど話に出た『シン・ゴジラ』もそうですが、2016年の東宝配給作品は非常にクオリティが高く、内容的にも興行的にも大成功していると感じます。

古澤:どうなんでしょうね。でも“タイミング”はあるかもしれません。『シン・ゴジラ』もこのタイミングで新しいゴジラを作ることができたのは大きな意義でしたし、僕も来年に向けて『GODZILLA』というゴジラのアニメーション映画を作っているので、『シン・ゴジラ』を超えるべく、先を見ていきたいなと。自分たちにハードルを課しながら、それぞれが作品をよりよいものにしていこうとしてはいますね。監督やプロデューサーはもちろん、作品に携わる人間全員が、“作品を当てる”という同じ方向を向いているので、そのために何をすべきか、周りの人間を参考にしたり相談をしたりしながら、社員も成長しているかもしれません。それこそ、川村の活躍を見て、自分も新しいことをやろうと思う若い人間が出てきますから。

ーー東宝では若手プロデューサーが活躍する機会も増えているのでしょうか?

古澤:そうですね。感覚的には若い人のほうがお客さんに近い部分があると思うんですよね。歳をとってくると、自分では最先端と思っていても、実はズレてることも結構ありますから。だから、東宝でもできるだけ若い人にチャンスが生まれるような形にはなりつつあると思います。川村にしても、20代の時からチャレンジさせてもらっているから、今があるわけですから。ビッグバジェットの作品を若いうちにやらせてもらえるなんてなかなかないと思いますけど、僕ら管理職の立場からすると、「これなら絶対当たります!」と部下が言うからには、例え自分の価値観ではダメだと思っても、それなりの覚悟を持って、通すものは通したいと思っています。そのチャレンジ精神と、それに由来される努力を両方兼ね備えた人には、プロデューサーとして頑張ってもらっています。僕は東宝に入社してから2年間、京都の映画館で働いていたのですが、僕が2年目のタイミングで新入社員として入ってきた後輩が、今は『シン・ゴジラ』のプロデューサーをやっているんです。川村も最初は映画館で働いていましたし、京都の映画館で一緒にポップコーンを作っていた2人がヒット作に携わっていると考えると、なかなか面白いですよね。やる気さえあれば誰にでもチャンスはあるんです。

ーー古澤さんもお若いですよね。

古澤:管理職でいうと一般的には若いかもしれませんね。川村が37歳で、僕が38歳ですから。

ーーTOHO animationを立ち上げた時は34歳ということですよね。

古澤:そうですね。なので、抜擢してもらった部分はあります。僕はどちらかというとビジネス調整寄りのプロデューサーで、川村がクリエイティブ寄りのプロデューサーなので、役割は結構明確に分かれているんです。ビジネス寄りの僕が全体を見るような体制を作ってもらったので、最初はもちろんビジネスから入っていくんですが、テレビアニメにしても、結局プロデューサーの熱意であったり、いち早く原作を取ってくるであったり、クリエイティブな部分で助けられたことも多かったので、ビジネスだけに縛られるのもよくないなということで変化していきました。なので、50代でやれと言われていたらできなかったと思います。

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