新海誠、『君の名は。』で新たなステージへ 過去作との共通点と相違点から読み解く

新海誠、『君の名は。』で新たなステージに

田中将賀と安藤雅司がもたらしたもの

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 本作は新海誠らしさが溢れ出た作品だが、新たな息吹を吹き込んだキャラクターデザインの田中将賀と作画監督の安藤雅司の貢献は見逃せない。

 新海誠は好きなアニメ作品に『とらドラ!』を挙げている。同作のキャラクターデザイン・総作画監督の田中将賀とはいつか仕事としたいと考えていたという。この「とらドラ!」との出会いがなければ、本作によって新海誠が新たなステージに立つことはなかったかもしれない。新海誠は田中将賀の絵を「新しくて、どこかで見た馴染みのある、温かみのある絵」(『田中将賀ぴあ』P6)と評している。また、アニメスタイル編集長の小黒祐一郎は、「コアユーザーが好むキャッチーさと、一般的な視聴者が受け入れてくれるメジャーさを両立させて」いる絵であり、日常描写における喜怒哀楽の多彩さに田中の強みがあるとする。(『田中将賀ぴあ』P56)

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 確かに本作は新海誠の過去作と比べてキャラクターの表情が圧倒的に多彩になっている。静かな芝居の中で背景に情感を託して描くことを得意としていた新海誠の個性に、キャッチーさとメジャーさを併せ持つ表情豊かな田中のキャラクターが加わったことによって、表現の幅が大きく拡がった。

 そして、今回作画監督を務めた安藤雅司(『千と千尋の神隠し』『パプリカ』の作画監督)の貢献度も非常に大きいだろう。『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』の作画監督を務めた安藤雅司は、沖浦啓之に「リアルな中にもソフトな感じがある」(参考:WEBアニメスタイル『ももへの手紙』沖浦啓之監督インタビュー第3回 実在感のあるキャラクターを求めて)絵だと評されているが(ちなみに沖浦啓之も本作に参加している)、これは長年、新海誠が感じてきた日本アニメの特徴と重なる。

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 新海誠は『赤毛のアン』を見た幼稚園の頃、すでにキャラと背景の質感が違うものが両立していることを不思議に感じていたそうだ。近年の日本のアニメの背景は実車と見紛うほど精緻に描かれているものもあるが、そのリアルな背景にデフォルメされたアニメキャラが動く独特なバランスが、日本アニメ全体の特徴となっている。

 『赤毛のアン』は、監督を巨匠・高畑勲、場面設定を宮崎駿、キャラクターデザインと作画監督を安藤雅司の師匠・近藤喜文が務めた。新海誠はスタジオジブリにも大きな影響を受けたとよく語っているが、そのジブリ的センスを、安藤雅司の参加によって自分の作品世界に取り込むことに成功した。

 それは、『星を追う子ども』のような、ジブリを意識しすぎて自分の個性を封印することとは違い、自らの得意とする世界観に、ジブリが作り上げてきた(あるいはジブリ以前から受け継がれてきた)日本アニメ本流のエッセンスを、違和感なく自分にものにするということだ。止まった絵でも何かを語れるのは新海誠の強みでもあったが、本作では、その個性に加えて、躍動するキャラクターによっても物語が進む。新海ファンには馴染みある感覚と新鮮さが違和感なく同居できることを示した点は、本作最大の収穫だろう。

現代日本を意識した内容

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 これまでの新海作品には、現代を舞台にしていても、同時代を生きる観客に向けた明確なメッセージを持った作品はなかった。しかし、本作は明確に現代社会に向けて作られており、2010年代を生きる日本人にとっては切実に響く何かがある。そんな力強いテーマを掲げることができるようになったのも作家としての大きな成長を感じさせる。

 紛れもなく新海誠の最高傑作だし、川村元気プロデューサーが製作発表会見の折にも意識していたように(参考:「君の名は。」製作発表記者会見)、宮崎駿と細田守のステージに、新海誠が到達しうる可能性を示した記念碑的作品だ。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■公開情報
『君の名は。』
全国東宝系にて公開中
声の出演:神木隆之介、上白石萌音、成田凌、悠木碧、島崎信長、石川界人、谷花音、長澤まさみ、市原悦子
監督・脚本:新海誠
作画監督:安藤雅司
キャラクターデザイン:田中将賀
音楽:RADWIMPS
(c)2016「君の名は。」製作委員会
公式サイト:http://www.kiminona.com/

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