桐谷美玲は“月9ブランド”を取り戻せるか? 『好きな人がいること』に見るフジテレビの本気

 他の若手女優のキャスティングもいい。プロデューサーの藤野良太作品では常連となりつつある佐野ひなこや大原櫻子はもちろんのこと、悪女役で頭角を現している菜々緒も、うまくハマっている。必ずしも演技が達者というわけではないが、瑞々しい演技をする若手を取り揃えている。

 例えば坂元裕二のドラマを見ていると、作品のクオリティは高いものの、俳優に関しては、すでに映画等で評価が定まっている人ばかりを起用することにどこか息苦しさを感じることがある。そのことで、作品の完成度は高まっているのだが、もっと役者と作品がいっしょに育っていく方が月9の作り方には合っているのではないかと思う。

 カタログ的な作りに徹しているため、作品としては軽く見られてしまう面はあるだろう。だが、今後の月9のことを考えたとき、『いつ恋』の完成度の高さよりも、『好きな人がいること』のポップなカタログ性の方に可能性があるのではないかと思う。 この水準の恋愛ドラマを作り続けることができれば、若い視聴者は増えていくだろう。

 テレビドラマにおいて重要なのは、個々のドラマの面白さだけでなく、その枠が持つ明確なブランドイメージだ。朝ドラや日曜劇場の視聴率が安定しているのは、その枠のイメージが視聴者にとって明確だからであり、かつての月9もそうだった。だが、そういった過去のブランドイメージが枷となっていたのも事実である。特に近年の作品は月9らしさというイメージを意識しすぎて、過去に月9で活躍した人気俳優を連れてくることばかりに躍起になっていた。しかし、本来、月9を筆頭とするフジテレビのドラマは、伝統など無視して、冷酷なまでに流行を追い求める俗っぽい軽薄さにあったはずだ。つまり、若手俳優を積極的に起用する『好きな人がいること』こそが本来の意味での原点回帰なのだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
『好きなひとがいること』
毎週月曜よる9時より放送
出演:桐谷美玲、山崎賢人、三浦翔平、野村周平、大原櫻子、浜野謙太、佐野ひなこ、飯豊まりえ、菜々緒、吉田鋼太郎、ほか
脚本:桑村さや香
プロデュース:藤野良太
制作:フジテレビ ドラマ制作センター
公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/sukinahitogairukoto/index.html

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