森田剛の連続殺人鬼役は、なぜ恐ろしいのか? “心の内を読ませない”驚異の演技
この一方的な森田という男は、恋愛に対しても一方的。思い込んだら毎日のように、彼女の働くカフェに通う、見張る、家まで行く。ストーカーなのである。ただ森田の目には、彼女に対する想いとかいう人間的感情は映されていない。相手を人間として見ている感じではない。その標的になるユカ(佐津川愛美)はその後、彼女に一方的に想いを寄せる安藤(ムロツヨシ)の同僚である岡田と知り合い、恋愛関係に。それを知った森田は岡田を殺しの標的にする。そこには深い憎悪もあった。実は岡田は、森田が高校時代いじめにあっていたのを傍観していた人物だったのだ。森田はその後、自分をいじめた相手を殺し、それを引き金にして、無差別に殺人を重ねて来ていた。
見知らぬ民家に侵入し、奥さんを殺し、そこに用意してあった夕食のカレーを食べる。旦那さんが帰って来る、殺す、また残りのカレーを淡々と食べる。この一連を、まるで日常生活の一環かのように平然と行う。もはや彼にとって、殺しは日常生活と同じで意味を持たない。ご飯を食べるのと変わらない、ただ殺す。それは耳の横でブンブンうるさいハエを、うるせ~な~と殺すまで追い駆け回って、仕留めるのにも似ている。ユカを守ろうとする岡田を追い詰めた時の、そこに流れる一瞬の殺伐とした緊張感。息を飲む相手に対して、その一貫した冷めた視線に鳥肌が立つ。決して心の内を読ませようとしない、掴みどころのない、その演技力。最後に明かされる森田の、本当の人間の顔。純粋無垢な頃の岡田との思い出。「おかあさん、麦茶2つ!」柔らかな笑顔と、この言葉がやたら胸に響いて残る。バラエティーで垣間見た、掴みどころのなさの裏に隠された優しさ。その伸びやかな感性は、現実と見まごうような状況を作り出し、恐ろしいほどの狂気と切なさを魅せた。恐るべし怪優、森田剛である。
■大塚 シノブ
5年間中国在住の経験を持ち、中国の名門大学「中央戯劇学院」では舞台監督・演技も学ぶ。以来、中国・香港・シンガポール・日本各国で女優・モデルとして活動。日本人初として、中国ファッション誌表紙、香港化粧品キャラクター、シンガポールドラマ主演で抜擢。現在は芸能の他、アジア関連の活動なども行い、枠にとらわれない活動を目指す。
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■作品情報
『ヒメアノ〜ル』
TOHOシネマズ 新宿ほか全国公開中
監督・脚本:吉田恵輔
原作:古谷 実
出演:森田剛、濱田岳、佐津川愛美、ムロツヨシ
配給:日活
(c)2016「ヒメアノ〜ル」製作委員会
公式サイト:himeanole-movie.com/