『キンプリ』と歌舞伎の意外な共通点? 声援、アフレコ、サイリウムOK上映の新しさ

変わりゆく映画上映

 近年、映画の上映形態が多様化している。3D、IMAX、4DX、立川シネマシティに代表される極上爆音上映etc…そして近年は観客が声援を送りながら観賞できる応援上映なども一部で定着し始めている。自宅の視聴環境も年々向上しているなか、映画を見るだけなら映画館でなくても手軽にスマホでも見られる時代には、映画館でしか体験できない価値の提供を考えなくてはならない。上映形態の多様化はそうした時代の要請でもある。コピー出来ない体験が重要というのはコンテンツ業界ではどこでも聞かれる話だったが、元々複製技術の賜物である映像作品はここが本当に悩ましい問題なのだ。

 さて、そんな悩ましい問題へのアンサーの一つと言えるだろう作品が、今話題の『KING OF PRISM by PrettyRhythm(以下キンプリ)』だ。本作は応援上映という観客が声援を送る形式の上映形態を実施している。声援OK、サイリウムを振るのもOK、アフレコもOKという特殊な上映形式と、内容の面白さもあって話題となっている。当初は14館でのみひっそりと上映されていたのが、口コミで拡大し、興行収入は5億円を超える快挙を達成している。

観客の応援あって初めて完成する作品

 応援上映自体は今でこそ珍しくなくない。しかしキンプリのユニークな点は何かというと、観客の応援を前提に制作されている点だ。本作は参加者の応援があって初めて完成する。どういうことかというと、例えばこんなシーンがある。自転車で二人乗りの男女がいる。後ろの女性がアイスクリームを食べさせようとしているのだが、女性の顔は黒塗りになっている。実は彼女は作品の登場人物ではない。ここに字幕「あ〜ん♥」と字幕が入る。これはここでアフレコしてください、という意味だ。あらかじめ観客に合いの手を入れてもらう前提の作りになっている。

 ある意味、これは映像だけで作品が完成していない状態と言えるかもしれない。真面目な映画評論家なら邪道と思うかもしれない。しかしこうした表現・演出は映画の大先輩である歌舞伎にも見られる。歌舞伎では大向う(芝居小屋の三階正面の席)から「○○屋」や「待ってました!」などの掛け声が入るのが通例だ。中にはそうした掛け声が作品の一部を構成しているような作品すらある。『お祭り』という舞踊では「待ってました!」と掛け声が入ると「待っていたとはありがてえ」と役者が返すやりとりがある。上記のキンプリの演出はこれに近いのではないか。

 こうした歌舞伎の観客への開かれ方は西洋演劇には見られないものだ。歌舞伎は舞台上の役者と観客が一体となって芝居を作る、という習慣が根付いている。キンプリは歌舞伎のような、観客とともに作る作品を実践していると言える。それは邪道どころか、西洋で生まれた映画という表現が、日本の伝統とようやく融合した形と言ってもいいかもしれない。実際に体験してみるとわかるが、観客と映像の一体感に包まれると、大変な幸福感を味わえる。この一体感も含めて本作の魅力なのだ。

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