ジャッキー・チェンの凄味はアクションだけじゃない! 『ドラゴン・ブレイド』で見せたフィルムメイカーの手腕

ジャッキー、フィルムメイカーとしての凄み

 ジャッキーは2000年代後半から既存のイメージとはかけ離れた作品をいくつか製作してきた。それはいわば、ジャッキーの過去に対する憧憬“ノスタルジー”への挑戦である。

 2009年の『新宿インシデント』ではカンフーすら封印し、中国からの渡航者が日本の闇社会で成り上がる中華版『ゴッド・ファーザー』をやってみせた。ここでジャッキーは、香港ノワール『ワンナイト・イン・モンコック』のイー・トンシン監督を抜擢し、自らのために殺人すら犯す主人公を演じた。2010年の『ラスト・ソルジャー』は、『ドラゴン・ブレイド』と同じく平和がテーマ。ジャッキーは中国の若手ワン・リーホン演じる将軍を人質にとり、報奨金を得ようとする脱走兵を演じた。こちらはアクションこそ派手なものの、ジャッキーの活躍は控えめなうえ、とてつもなく切ないラストで幕を閉じる。筆者はどちらも大好きだが、軽快なジャッキーアクションを求める方には不満が残ったようだ。

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(C) 2015 SPARKLE ROLL MEDIA CORPORATION HUAYI BROTHERS MEDIA

 そういった不満を持つ方はよく考えてほしい。60歳を過ぎたおじさんが超人のように動いてしまってはシリアスな世界観は破たんをきたし、ジャッキーだけを観ることが目的になってしまうはずだ。派手なアクションやスタントを観たければ、過去作のDVDやYouTubeに転がっているスタントマンのアクションリールを観ればいい。一連の非ジャッキーアクション作品では、ジャッキーはフィルムメイカーとして、自らを作品の一部としてコントロールしているに過ぎないのである。自身の監督作……例えば『ライジング・ドラゴン』のような作品では、暴走して往年のジャッキーアクションをファンに見せようとしてしまうこともあるが。

 『ドラゴン・ブレイド』は監督の持ち味、共演者の個性、そして自身の思想を上手く差配した、ジャッキーの製作者としての進化を体感できる作品である。ジャッキー・チェンはノスタルジーに浸らない。俳優としても、フイルムメイカーとしても、ひたすら貪欲に先に進み続けるのである。

■藤本 洋輔
京都育ちの映画好きのライター。趣味はボルダリングとパルクール(休止中)。 TRASH-UP!! などで主にアクション映画について書いています。Twitter

■公開情報
『ドラゴン・ブレイド』
2月12日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他にて全国公開
出演:ジャッキー・チェン、ジョン・キューザック、エイドリアン・ブロディ、チェ・シウォン、リン・ポン
監督・脚本:ダニエル・リー
製作・アクション監督:ジャッキー・チェン
配給:ツイン
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